米国のイラン攻撃停止で有事のドル買い一服|ドル円163円台半ば、米英日の政策金利発表を控えた市場をやさしく解説
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一時164円手前まで進んだドル円が、米国のイラン攻撃停止で163円台半ばへ一服。
今週は米・英・日で政策金利の発表が集中します。
「攻撃停止で円高に戻る?」
「3つの中銀会合をどう見る?」
——この記事を読めば、その答えがすっきり整理できます。
むずかしい言葉は一つずつかみくだいていくので、どうぞ気楽に読み進めてくださいね。
まずは全体像から(先に結論をお伝えします)
- 米国のイラン攻撃停止で有事のドル買いが一服、ドル円は163円台半ばへ
— 原油も90ドルを割れました - ただし円安材料は消えていない
— 財政拡張懸念と日米金利差は残っています - 今週は米・英・日で政策金利発表が集中
— いずれも据え置き予想ですが、FOMCは反対票の可能性も
それでは、一つずつ見ていきましょう。
1. ドル円、164円手前から163円台半ばへ一服
まずは足元の相場から。
先週、ドル円は一時163円99銭と164円目前まで上昇していました。
中東緊迫による有事のドル買いと、原油100ドル突破による米金利上昇が背景でした。
ところが週明け27日、流れが変わりました。
円は対ドルで163円台半ばへやや強含んでいます。
理由は、米国がイランへの空爆を停止したこと。
米国は24日夜以降、2夜連続で攻撃を止め、イランも報復を控える姿勢を示しました。
ホルムズ海峡を巡ってはオマーンとの協議も行われ、緊張緩和への期待が高まっています。
これを受け、原油は下落。ブレント原油は一時1バレル=90ドルを割り込みました。
株式市場では、中東の緊迫感が和らいだことでTOPIXが反発し、幅広い銘柄に買いが入っています。
債券も、原油安でインフレ圧力が和らぐとの期待から買われました(金利は低下)。
なお、りそなアセットマネジメントの下出衛氏は、この動きを「TACOトレード」と呼んでいます。
これは「トランプ大統領が最終的には尻込みする(強硬姿勢を引っ込める)ことに賭ける取引」のこと。
市場が「トランプ氏は本気の全面戦争までは踏み込まないだろう」と読み始めている、という見方です。
2. 有事のドル買い一服 — でも円安材料は消えていない
攻撃停止で円が買い戻されたとはいえ、円安の流れが終わったわけではありません。
ここが今回の重要なポイントです。
なぜ「一服」にとどまるのか
有事のドル買いは、あくまで中東情勢という一時的な要因によるものでした。
緊張が和らげばドル買いも一服します。
しかし、円安を生んでいる根っこの要因は、依然として残っているのです。
具体的には、
①財政拡張への懸念(高市政権の大規模支出)
②日米金利差(日本の金利はまだ低い)
③政府の圧力で日銀の利上げが遅れれば、かえってインフレ懸念が高まるという構図です。
市場参加者の見方
SBI FXトレードの上田真理人氏は
「財政拡張懸念が強い上、政府の圧力で日銀の利上げが遅れればインフレ懸念も高まるため、円売り材料は消えていない」と指摘。
介入があっても効果は限定的で、ドルは160円を割り込まない可能性もあるとみています。
みずほ証券の山本雅文氏も
米国のイラン攻撃停止がドル円の上値を抑える可能性はあるとしつつ、「必ずしも停戦再開や和平協議進展を意味しているわけではない」と指摘。
「ドル円上昇の一服はあくまで一時的で、今週の日米金融政策決定会合を受けて再びドル高・円安圧力がかかるリスクは残っている」としています。
リスクオンで進む「もう一つの円安」
もう一つ注目したいのが、リスクオン(投資家がリスクを取りやすい状態)での円の動きです。
中東の緊張緩和で、市場は安心してリスク資産を買いやすくなりました。
すると、低金利の円を売って高金利通貨を買うキャリートレードが活発になります。
その結果、円は対ドルではやや強含んでも、ドル以外の通貨に対しては軟調になっています。
「有事のドル買いが止まって円が対ドルで戻る」一方で、「リスクオンで円が他通貨に対して売られる」
——この2つが同時に起きているため、円の総合的な実力(実効為替レート)の戻りは限られています。
「ドル円だけ見ていると、円の弱さを見落とす」局面が続いているのです。
3. 今週は米・英・日で政策金利発表が集中
今週最大の焦点が、3つの中央銀行の政策金利発表です。日程を整理しましょう。
- 米FOMC:28〜29日
- 英中銀(MPC):30日
- 日銀:30〜31日
いずれも今回は行動を起こさない(据え置き)と予想されていますが、原油が一時100ドルまで上昇したインフレリスクに、各国中銀がどれだけ警戒しているかが示されます。
ここでは、とくに注目度の高いFOMCと日銀を見ていきましょう。
なお英中銀については、前回お伝えしたとおり、英インフレ率が15カ月ぶりの低水準に鈍化しており、据え置きの公算が大きいとされています。
市場は年内に1回の利上げを織り込んでいます。
背景として、ECB(欧州中央銀行)が追加利上げの用意を示唆するなど、G7の多くの国で9月にも金融引き締めに動く可能性が意識されている点も押さえておきましょう。
世界的に「インフレ再燃への警戒」がじわりと広がっており、G7各国の国債利回りが急上昇しています(米30年債利回りは2007年以来の高水準近くへ)。
原油100ドルという共通の逆風に、各中銀がどう向き合うか
——今週はその答え合わせの週なのです。
米FOMC — 「タカ派的な据え置き」で反対票の可能性
FOMCは据え置きが大勢の予想ですが、すんなりとは決まらないかもしれません。
先週発表された6月CPIは予想を下回り、いったんは利上げを見送る余地が生まれました。
しかしその後、中東緊迫で原油が急騰し、利上げ観測が再燃。FF金利先物が織り込む今回の利上げ確率は、6月CPI後の約10%から、先週末には約35%まで上昇しました。
注目は、反対票です。
ダラス連銀のローガン総裁とクリーブランド連銀のハマック総裁は、ともに利上げに前向きで、今週の会合で議決権を持ちます。
この2人が据え置きに反対票を投じる可能性が指摘されています。
ブルームバーグ・エコノミクスのアナ・ウォン氏は
「タカ派的な据え置きを見込む」と分析。
「ウォーシュ議長は、インフレ率が引き続き高すぎると強調し、9月の利上げカードを温存することになりそうだ。
しかし軟調なCPIデータは、今月の行動を見送る十分な材料になる」としています。
つまり、「今回は動かないが、9月にはやるぞ」という姿勢を示す、というシナリオです。
初心者の方が押さえたいのは、「据え置き=円高」とは限らないこと。
据え置きでも、9月利上げを強く示唆するタカ派的な内容なら、ドル高・円安が進む可能性があります。
前回もお伝えしたとおり、「利上げがなくてもタカ派示唆でドル高」の展開に注意です。
日銀 — 据え置き予想、でも「利上げ観測」がカギ
日銀も、30〜31日の会合では政策金利の維持(据え置き)が予想されています。
6月に1.0%へ利上げしたばかりで、その影響を見極める段階だからです。
ただし、市場が注目するのは利上げのタイミングを巡る発信です。
金利スワップ市場は、9月までの利上げを4割弱織り込んでいます。
前回お伝えしたように「日銀は利上げペース加速に柔軟」との報道もあり、円安・原油高による物価上振れリスクに、日銀がどれだけ言及するかが焦点です。
一方で週末には、「日銀執行部は早期利上げに前のめりではない」との報道も複数出ました。
もし日銀がハト派的(利上げに慎重)な姿勢を見せれば、円安が進みやすくなります。
タカ派なら円高、ハト派なら円安
——この綱引きの結果が、31日に示されます。
なお、高市首相は27日の国会で、金融政策の手段は「日銀に委ねられている」と述べ、日銀の独立性を尊重する姿勢を示しました。
市場の反応は限定的でしたが、これまで懸念されてきた「政府の利上げけん制(財政従属)」を和らげる材料と言えます。
4. その他の注目材料 — GDP・PCEとFRBの「見方の二極化」
最後に、今週の相場を動かしうる、その他の材料を整理します。
FOMC翌日にGDPとPCE
FOMCの政策発表の翌日(30日)には、重要な経済指標が続きます。
- 4〜6月期のGDP速報値:個人消費と設備投資に支えられ、年率換算で前期比2.1%増が見込まれます。米経済の底堅さが確認されれば、ドルの支えになります。
- 6月のPCE価格指数:FRBが最も重視するインフレ指標です。ガソリン価格の下落を背景に、上昇率の鈍化が予想されています。
CPI・PPIに続いてPCEも落ち着けば、「インフレは一服」との見方が強まり、9月利上げ観測がやや後退する可能性もあります。
FOMCの結果とあわせて、方向感を確かめたいところです。
ちなみに、6月のFOMC議事要旨では、多くの参加者がAI関連需要や中東情勢、関税の影響でインフレが高止まりするシナリオを議論し、そのほぼ全員が「そうなれば利上げが必要になる可能性が高い」との認識を示していました。
その後、実際に中東が再緊迫し原油が急騰、新たな関税措置も加わっています。
つまり、当時「利上げが必要になるかも」と当局者が想定した条件が、現実になりつつあるわけです。
この点も、今回のFOMCで反対票やタカ派姿勢が出やすいと見られる理由の一つです。
市場は「利上げと利下げの両方に備える」
今の市場の特徴を、よく表すデータがあります。
金利・為替リスク管理を手がけるデリバティブ・パスのバティアCEOによると、「取引先銀行の約3分の1は利上げに備えたポジションを取っている一方、それ以外は利下げに備えたヘッジをしている」というのです。
これは、市場の見方が真っ二つに割れていることを示します。
バティア氏は、「市場がFRBの動きを予測するのではなく、利上げと利下げの双方に備える姿勢に転じたことを示している」と説明します。
ウォーシュ議長がフォワードガイダンス(政策の事前予告)をやめた影響で、プロでさえ方向を読みきれず、両にらみで身構えているわけです。
FXトレーダーにとっての教訓は明快です。
見方が割れているイベントほど、結果が出た瞬間に相場が大きく動く。
今週のFOMCと日銀会合は、まさにその典型です。
ポジションを小さめにする、損切りラインを必ず置くなど、リスク管理を一段と丁寧にして臨みたいですね。
AI関連決算にも注目
もう一つ、今週はマイクロソフトやアマゾンなど大手クラウド企業(ハイパースケーラー)の決算も控えています。
AI投資が本当に利益につながっているかへの懸念がくすぶっており、決算次第では株式市場が荒れ、リスク回避の円買いにつながる可能性もあります。
金融政策と決算、2つの大きなテーマが重なる週です。
まとめ — トレードで気をつけたい3つのこと
① 攻撃停止による円高は「一服」— 円安材料は残る
有事のドル買いは和らぎましたが、財政懸念と日米金利差は健在です。
「一時的な戻り」と見て、流れの根っこを確認しましょう。
リスクオンでの他通貨に対する円安も見落とさないように。
② 3中銀会合は「据え置きでも動く」
米英日いずれも据え置き予想ですが、FOMCは反対票やタカ派示唆、日銀は利上げ観測を巡る発信がカギ。
「据え置き=円高」と決めつけないようにしましょう。
③ 「見方の二極化」に備える
プロでさえ利上げ・利下げの両方に備える異例の状況。
結果が出た瞬間に相場が大きく飛びます。
ポジションは小さめに、損切りラインを決めて臨みましょう。
原油の落ち着き、そして米英日の中銀会合とAI決算
——今週は多くの材料が重なる山場です。
ぜひ落ち着いて相場を見守ってみてくださいね。
【付録】用語のかんたんおさらい
- 有事のドル買い:戦争や紛争など不安が高まったとき、安全とされるドルが買われる動きのこと。
- TACOトレード:トランプ大統領が強硬姿勢を最終的に引っ込めることに賭ける取引を指す市場の俗称。
- リスクオン:投資家が積極的にリスクを取りに行く市場環境。低金利の円が売られやすくなります。
- キャリートレード:低金利の通貨を借りて高金利の通貨・資産に投資し、金利差で稼ぐ手法。
- 実効為替レート:複数の通貨に対する、その通貨の総合的な実力を示す指標。
- FOMC:米国の金融政策を決める会合。今回は28〜29日に開催されます。
- タカ派的な据え置き:金利は据え置くが、今後の利上げに前向きな姿勢を示すこと。通貨高につながりやすいです。
- PCE価格指数:FRBが最も重視するインフレ指標。個人消費支出の物価動向を示します。



