ドル円164円目前の163円台後半へ|日米政府の円安見解と、ドル高が止まらない3つの理由をやさしく解説
このブログで用いている相場の見方と予想の仕方はこちら
【FXファンダメンタルズ分析法動画】
ドル円が一時163円99銭と、164円目前まで上昇しました。
「日本政府は何と言っている?」
「米財務省が円安に言及した意味は?」
「なぜドルはここまで強い?」
——この記事を読めば、その答えがすっきり整理できます。
むずかしい言葉は一つずつかみくだいていくので、どうぞ気楽に読み進めてくださいね。
まずは全体像から(先に結論をお伝えします)
- ドル円は一時163円99銭、164円目前まで上昇
— 原油100ドル突破と米金利上昇が背景です - 片山財務相は「断固たる措置を果断に」と最強レベルのけん制、しかし反応は薄い
- 米財務省が「円は大幅に過小評価」と明記
— 日本の介入を容認するメッセージとの見方も
それでは、一つずつ見ていきましょう。
1. ドル円、一時163円99銭 — 164円目前へ
まずは足元の相場から。
23日の米市場で、円は対ドルで一時163円99銭まで売られ、164円の大台に迫りました。
24日の東京市場でも163円台後半で推移しています。
きっかけは、中東情勢の一段の悪化です。
イエメンのフーシ派が紅海で商船を攻撃したと主張し、北海ブレント原油は1バレル=100ドルを突破。
原油高がインフレ懸念を強め、米国債利回りが軒並み上昇しました。
FRBの政策に敏感な2年債利回りは4.37%と2025年初頭以来の高水準、30年債利回りも5.19%と2007年以来の高さに迫っています。
株式市場は大幅安。
日経平均は一時2000円超下げました。
中東緊迫に加え、米アルファベットの決算をきっかけにAI投資拡大への懸念が再燃し、ハイテク株が売られたためです。
大和証券の坪井裕豪氏は、これまでは中東情勢がいつか落ち着くという楽観が強かったが、原油が90ドル台に乗せて「もう少し注目しなければいけないと意識され始めている」と話しています。
なお、円だけでなくスイスフランも約1年ぶりの安値をつけました。
バンク・オブ・ナッソー1982のウィン・シン氏は、「円とスイスフランがともに売られる中、この環境ではドルが王座を維持している」と述べています。
安全通貨とされる円やフランを差し置いて、ドルが独り勝ちしているのが今の局面です。
2. 日本政府の見解 — 「断固たる措置を果断に」
164円目前の円安を受け、片山さつき財務相が24日、けん制を強めました。
発言の中身
片山財務相は閣議後会見で、「必要に応じていつでも適切に対応するが、それは断固たる措置を果断にやるということだ」と述べました。
ここで注目したいのが、言葉の「強さ」です。連載でも追ってきたとおり、当局の口先介入には段階があります。
「注視する」→「適切に対応する」→「果断な措置」→「断固たる措置」の順に警戒レベルが上がり、「断固たる措置」は介入が非常に近いことを示唆する、最も強い表現とされます。
今回はその「断固たる措置」に「果断に」を重ねた、いわば最強レベルのけん制でした。
また片山財務相は、米国とは昨年9月の日米財務相共同声明に沿って「24時間、365日緊密に協議している」と強調しました。
市場参加者の見方 — それでも反応は薄い
ところが、この発言に対する市場の反応は薄いままでした。
ここが今の相場の難しさです。
理由は2つ考えられます。
第一に、これまで繰り返しけん制が行われてきたため、市場が「言葉」に慣れてしまったこと。第二に、そもそも今の円安が「理由のあるドル高」によって進んでいることです。
原油高→米金利上昇→ドル買い、という流れは経済の実態に沿った動きであり、無秩序な投機だけが原因ではありません。
だからこそ、介入の大義名分が立ちにくいのです。
政府・日銀は5月27日までの1カ月間に11兆円超という過去最大規模の介入を実施しました。
しかし、財政拡張への懸念や米利上げ観測、中東悪化から円安の流れは変わっていません。
市場では追加介入の有無を巡る思惑が交錯しています。
ここで初心者の方に押さえてほしいのは、「けん制の言葉が強くなっても、必ず介入が来るとは限らない」ということ。
逆に、言葉が強まっているのに動かない状態が続くと、市場は「口だけだ」と受け止め、かえって円安が進みやすくなる面もあります。
当局にとっては、言葉を使い切ってしまうリスクもあるわけです。
だからこそ、次に実弾(実際の介入)が出るとすれば、市場の不意を突く形になりやすい
——この点は、円安方向にポジションを持つうえで常に意識しておきたいですね。
3. 米財務省の見解 — 「円は大幅に過小評価」
今回とくに重要なのが、米財務省が23日に発表した外国為替報告書です。
半年に一度、主要な貿易相手国の為替政策を点検するもので、その内容が注目されました。
報告書の中身
日本(円)については、次のように指摘されています。
- 2026年4月までの数年にわたる円の下落が「大幅な円の過小評価をもたらした」
- 「日米金利差の縮小にもかかわらず円安が続いている」
- 「金融市場のボラティリティーや原油価格といった世界的な要因も影響したとみられるが、円の過度な変動は望ましくない」
- 「金融政策の正常化は、インフレ期待を安定させ、過度な為替変動を抑えるのに役立つ」
なお、日本は引き続き「監視リスト」(10カ国・地域)に掲載されましたが、「為替操作国」に認定された国はありませんでした。
監視リストには中国、日本、韓国、台湾、シンガポール、タイ、ベトナム、ドイツ、アイルランド、スイスが含まれます。
報告書は中国についても言及し、主要な貿易相手国の中で通貨管理を巡る「相対的な透明性の欠如」が際立っていると指摘。
人民元高を阻むための介入の証拠が得られれば、為替操作国に認定する可能性があると警告しました。
ベッセント財務長官も「不公正な為替慣行を強力かつ厳重に監視し、対抗していく」と述べています。
日本への言及が「円安への懸念」であるのに対し、中国へは「元安誘導への警告」
——同じ通貨安でも、扱いが対照的である点は押さえておきたいところです。
市場参加者の見方 — 「介入を容認するメッセージ」
この報告書を、市場はどう読んだのでしょうか。
三井住友銀行の納谷巧氏は
「円安が進んでいるタイミングだけに、日本の介入は容認するというメッセージ」とみています。
ここが重要なポイントです。
通常、自国通貨を売る介入は「為替操作」として批判されがちですが、日本が行うのは円買い(ドル売り)介入です。
ドル安方向の介入なので、米国としても容認しやすい。
そこへ「円は過小評価」「過度な変動は望ましくない」と米財務省が明記したことは、日本が介入する際の"お墨付き"になり得ます。
片山財務相も、この記述について日本も同様の認識を持っていると述べました。
それでも市場が動かない理由
納谷氏は、1月に米国がレートチェック(当局が銀行に為替水準を確認する行為。介入の前触れとされる)を行った経緯を踏まえると、「市場はもっと反応してもよいと思うが、あまり反応していない」とも指摘します。
その理由として同氏が挙げるのが、「ドルロング(ドルの買い持ち)が積み上がっていない」という点です。
今の円安は投機筋が大量に円を売り込んだ結果というより、原油高・金利上昇による自然なドル買いで進んでいる。
だから、「市場の鼻息が荒くない」
——つまり、過熱していないのです。
これは初心者の方にとって、とても実践的な視点です。
ポジションが偏っていないと、介入や口先介入があっても巻き戻し(急な円高)が小さくなりやすい。
逆に言えば、投機のポジションが極端に積み上がっているときほど、介入の効果は大きくなります。
今は前者の状態にある、というわけですね。
もう一つの注目点 — 「金融政策の正常化」
報告書が「金融政策の正常化がインフレ期待を安定させ、過度な変動を抑えるのに役立つ」と述べた点も見逃せません。
これは遠回しに、「日銀は利上げを進めてほしい」というメッセージとも読めます。
前回お伝えした「日銀が利上げペース加速に柔軟」という報道とも、方向性が重なります。
米国は「介入」より「日銀の利上げ」による解決を期待している、という構図です。
4. ドル高が止まらない3つの理由と、その他の注目材料
最後に、いまのドル高を支える要因を整理しつつ、本日の注目材料をまとめます。
ドル高の3つのエンジン
① 原油高
ブレント原油が100ドルを突破。エネルギー価格の上昇はインフレを押し上げ、米金利を上昇させます。
日本にとっては輸入代金のドル需要増=円売り要因でもあり、二重にドル高・円安に働きます。
② 米利上げ観測の再燃
原油高を受け、スワップ市場が織り込む7月FOMCでの0.25ポイント利上げ確率は約35%へ上昇しました。
1週間前の約10%から急増しています。
9月までの利上げは完全に織り込み済みです。
③ 有事のドル買い
中東の緊迫で、安全資産としてのドルに資金が集まっています。
円もスイスフランも売られる中、ドルだけが買われる展開です。
市場参加者の見方 — 「自然体で164円」
三井住友銀行の納谷氏は
「中東情勢を受けた米金利上昇によってドル買いが広がっており、ドル円は自然体で164円は行くだろう」と予想。
さらに、今月のFOMCで「利上げがあれば165円を試す」との見方を示しています。
スペクトラ・マーケッツのブレント・ドネリー氏も
「市場は7月のFOMCがタカ派的な内容になることを見込んで、ドル買いを強める公算が大きい」と指摘。
「9月の利上げを計画、あるいは想定しているとのシグナルが示されれば、それだけで十分にドル相場を支える」と述べています。
つまり、今回利上げがなくても、タカ派的な示唆があればドル高が進む可能性があるわけです。
その他の注目材料
■ 米国の新関税
米国は主要な貿易相手国の大半に新たな関税を課す方針で、日本には少なくとも12.5%が適用されます(24日発動)。
三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩氏は
「悪材料だが一度経験している」ため相場への悪影響は限定的とみており、政府が交渉に動くとみられることから、現段階では額面通りに受け取られないだろうと述べています。
■ 日本の金利上昇
新発30年債利回りは一時4%、40年債は3.98%まで上昇しました。
りそなアセットマネジメントの藤原貴志氏は
「日銀が9月に利上げに踏み切る可能性をある程度見ておく必要があり、年限の短い債券は買いにくい」と指摘。
超長期債についても、来年度予算の概算要求の規模拡大や消費減税の可能性が意識されている、との見方です。
■ 米国債利回りの上昇が株式に波及
米10年債利回りは4カ月連続で上昇し、23日には4.7%と2025年1月以来の高水準へ。
金利上昇は、これまで比較的堅調だった米小型株にも逆風になると指摘されています。
シティグループのスチュアート・カイザー氏は
来週のFOMCについて「S&P500種とナスダック100、ラッセル2000の3指数では、ラッセル2000がFOMCの結果に最も敏感に反応する可能性が高い」と述べています。
金利の動きが株式市場全体に波及し始めている点は、リスク回避の円買いにつながる可能性もあるため、注視したいところです。
まとめ — トレードで気をつけたい3つのこと
① 「最強のけん制」でも反応薄 — ポジションの偏りに注目
片山財務相の「断固たる措置を果断に」にも市場は反応せず。
ドルロングが積み上がっていないため、と分析されています。
ポジションが偏っていないときほど、口先介入は効きにくい点を意識しましょう。
② 米財務省の報告書は「介入の追い風」になり得る
「円は大幅に過小評価」「過度な変動は望ましくない」との明記は、日本の円買い介入を容認するメッセージとの見方。
実弾介入のハードルは下がっている可能性があります。
③ 来週のFOMCは「利上げなし」でも動く
利上げ確率は約35%まで上昇。
仮に据え置きでも、9月利上げを示唆するタカ派的な内容ならドル高が進む可能性があります。164円、そして165円を意識しつつ、損切りラインを決めて臨みましょう。
原油100ドル、164円目前、そして来週のFOMCと日銀会合
——重要な局面が続きます。
ぜひ落ち着いて相場を見守ってみてくださいね。
【付録】用語のかんたんおさらい
- 有事のドル買い:戦争や紛争など不安が高まったとき、安全とされるドルが買われる動きのこと。
- 断固たる措置:当局の口先介入で最も強いレベルの表現。実際の介入が近いことを示唆します。
- 外国為替報告書:米財務省が半年ごとに主要貿易相手国の為替政策を点検・公表するもの。
- 監視リスト:為替慣行を注視する対象国のリスト。日本を含む10カ国・地域が掲載されています。
- 為替操作国:自国通貨を不当に安く誘導していると米国が認定する国。今回、認定された国はありません。
- レートチェック:当局が銀行に為替水準を確認する行為。介入の前触れとされます。
- ドルロング:ドルの買い持ちポジション。積み上がっているほど、巻き戻し時の反動が大きくなります。
- 金融政策の正常化:超低金利などの緩和的な政策を、通常の水準へ戻していくこと。



