ドル円、約40年ぶり高値の163円台へ|続く有事のドル買いと、好調なキャリートレードの仕組みをやさしく解説

 












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ドル円がついに163円台前半へ上昇し、1986年以来約40年ぶりの安値を更新しました。

「なぜ163円まで進んだ?」

「介入は来ないの?」

「好調なキャリートレードって何?」
——この記事を読めば、その答えがすっきり整理できます。

むずかしい言葉は一つずつかみくだいていくので、どうぞ気楽に読み進めてくださいね。





まずは全体像から(先に結論をお伝えします)

  1. ドル円は163円台前半へ、約40年ぶり安値を更新
    — 原油高と米金利上昇でドル買いが優勢です

  2. 片山財務相は「断固たる対応」とけん制するも、市場の反応は薄い
    — 介入には地合いが悪いとの声も

  3. キャリートレードが数十年ぶりの好成績
    — 低ボラティリティーが円安を後押ししています


それでは、一つずつ見ていきましょう。





1. ドル円、ついに163円台前半へ — 約40年ぶり安値を更新

まずは足元の相場から。

21日のニューヨーク市場で、円は対ドルで一時163円24銭まで下落し、7月1日につけた162円84銭を超えて、1986年12月以来、約40年ぶりの安値を更新しました。

22日の東京市場でも163円台前半で推移しています。


背景にあるのは、中東情勢の悪化による原油高です。

原油が上がるとインフレ懸念から米金利が上昇し、ドルが買われます。

米10年債・30年債の利回りは約2カ月ぶりの高水準をつけ、ドルが幅広い通貨に対して買われました。


北海ブレント原油は一時1バレル=92ドル目前まで急騰しています。

株式市場は続伸。

前日の米国市場で半導体株が大幅高(SOX指数が5.2%上昇)した流れを受け、日経平均は一時1000円超上げました。

一方、債券は原油高と円安で日銀の早期利上げ観測が高まり、軟調です。


なお政府は21日、「骨太の方針」を閣議決定しましたが、財政健全化の文言が復活しなかったことが、じわじわと円と国債の売り材料になるとの指摘も出ています。




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2. 続く「有事のドル買い」と、ドルが買われる流れ

163円台まで円安が進んだ原動力は、「有事のドル買い」です。

ここを、市場参加者の見方とともに整理しましょう。


なぜドルが買われるのか

中東情勢が悪化すると

①安全資産としてのドルが買われ(有事のドル買い)

②原油高がインフレ懸念を通じて米金利を押し上げ、金利の高いドルの魅力が増します。

この2つが重なり、ドル高・円安が加速しました。


「ストップロスを巻き込んだ」上昇

三菱UFJ信託銀行の横田裕矢氏は、原油高と米金利上昇でドル高になったことに加え、ドル円はストップロスを巻き込む形で163円台まで上昇したと指摘します。

「ストップロス」とは、損失を limit(限定)するための自動的な損切り注文のこと。


円高を見込んで円を買っていた人たちが、想定と逆に円安が進んだため、損切り(=円売り)を迫られました。

この円売りがさらに円安を呼ぶ
——節目を超えると損切りが損切りを呼ぶ連鎖が、163円台への急伸を後押ししたわけです。


「2つのエンジン」が円安を進める

三井住友信託銀行の山本威氏は、次のめどを「大台の165円」と見ています。

そのうえで、「ファンダメンタルズに基づくドル高と、投機の円安という2つのエンジンが動いている」と表現。

実体経済に沿ったドル買いと、投機的な円売りが同時に効いているため、円安の勢いが強いのです。

野村証券の後藤祐二朗氏も、「原油価格高止まりの中、介入発動がなければドル円はじり高の展開となりやすい」との見方を示しています。




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3. 片山財務相の「断固たる対応」— 市場の反応は薄い

約40年ぶりの安値更新を受け、片山さつき財務相は22日、円相場について「必要があればいつでも適切に断固たる対応をとる」と述べ、けん制しました。


「言葉」が効きにくくなっている

ただし、ここで注目したいのが、口先介入の「効き目」が薄れていることです。

片山財務相は先月末、当局の警告として最も強いレベルの「断固たる措置」という表現を使いました。


しかし今月は主に「必要に応じていつでも適切に対応する」にとどめ、17日には「果断な措置を取る」という新たな表現を使ったものの、市場の反応は薄いままでした。

同じような警告を繰り返すほど、市場は「言葉だけで、実際の介入(実弾)は来ないのでは」と受け止めやすくなります。

これが、口先介入が効きにくくなっている理由です。


市場参加者の見方 — 「介入には地合いが悪い」

さらに重要なのが、今は介入しにくい状況だという指摘です。

横田氏は、介入を正当化するには「相場に大きな変動が起きている」「ファンダメンタルズに沿っていない」といった理由が必要だとしたうえで、足元のドル円のボラティリティー(変動率)はかなり低いと指摘。


つまり、原油高・米金利上昇という"理由のある"ドル高で、しかも値動きは荒れていないため、「急激で無秩序な変動」を理由にした介入がしにくいのです。


山本氏も、165円の水準では政府も止めようとするだろうとしつつ、「2つのエンジンが動いているだけに、介入するには地合いが悪い」とみています。

横田氏は、7月末の日銀会合での為替への言及に注目し、「何もなければ、円安が止まらないことにもなりかねない」と述べています。

「介入警戒はあるが、実際に打ちにくい」
——この微妙な状況が、円安を進みやすくしているわけですね。

とはいえ、介入警戒がまったく無意味なわけではありません。

バンク・オブ・アメリカのストラテジストは

カナダ・ドル/円の売り(円買い)を推奨するリポートで、「日本当局による為替介入リスクが円の下値を支える」と指摘しています。

トランプ氏がカナダ製品への追加関税を示唆したことでカナダ・ドルに不透明感が出ており、「介入で下支えされる円」と組み合わせる戦略です。

また同社は、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が国内資産への配分を増やす可能性にも投資家は注意を払うべきだ、としています。

介入とGPIFという2つの円買い材料は、依然として相場の"重し"として意識されているわけです。





4. トランプ大統領、イランとの協議に慎重 — 中東情勢の見方

相場の底流にある中東情勢です。

米軍のイラン攻撃は11日連続となり、事態はさらに緊迫しています。


トランプ大統領は「協議に慎重」

トランプ大統領は、イランとの早期協議に慎重な姿勢を示しました。

「イランは必死に会談を望んでいる。しかし、本気で意味のある協議をする用意が整うまでは、われわれは会うつもりはない」と述べ、攻撃を続ける考えです。

一方、イランは協議を求めているとの米国の主張を否定しています。


緊張は紅海にも広がっています。イエメンのフーシ派がサウジアラビアへの海上封鎖を表明し、トランプ氏は「航路を妨害すれば対応する」と警告。

原油は7月に入って約20%上昇しました。

米国のガソリン価格は1ガロン=4ドルを再び上回り、11月の中間選挙を控えるトランプ氏には逆風になり得ます。


市場参加者の見方 — 「緊張緩和は当面見込みにくい」

仲介役のパキスタンとカタールは、「7月9日以前の状態に戻す」ことを緩和の第一歩と見て調整を続けていますが、進展は伝えられていません。

ワシントン近東政策研究所のシェンカー氏は、「多くの当局者は『緊張を緩和するには、まず緊張を高める必要がある』と考えている」と指摘。

現状ではイランから譲歩を引き出せず、さらなる対応が必要との見方です。


FXトレーダーにとってのポイントは

中東情勢が改善しない限り、原油高→ドル高・円安の流れが続きやすいということ。

停戦への期待が高まれば逆に振れる場面もあり得ますが、当面は緊張が続く前提で構えておくのが無難でしょう。

原油価格とホルムズ・紅海のニュースは、引き続き最重要のチェック項目です。


なお、事態が一段とエスカレートするリスクもくすぶっています。

米当局者の一部は、イラン国内への地上部隊投入や、主要原油輸出拠点であるカーグ島の制圧まで含めた軍事作戦の拡大を主張していると報じられました。

トランプ氏も、核施設と疑う「ピックアックス山」への攻撃の可能性を改めて示唆しています。

もしエネルギーインフラが本格的に攻撃されれば、原油はさらに急騰し、ドル円も一段と上振れするリスクがあります。

逆に、突然の停戦合意があれば急反落もあり得るだけに、中東発の"往復の振れ"には特に注意が必要です。





5. キャリートレードが好調 — 数十年ぶりの高成績

最後に、いまの円安を語るうえで欠かせないキャリートレードを、やさしく解説します。

実は、この取引が円安を後押しする一因になっています。


キャリートレードとは

キャリートレードとは、金利の低い通貨を借りて、金利の高い通貨や資産に投資し、その金利差で稼ぐ手法です。

日本は長年、金利がほぼゼロでした。

そこで投資家は、低金利の円を借りて売り、高金利の通貨を買う
——つまり円安につながる取引を続けてきました。


なぜ今、好調なのか

このキャリートレードが、2026年に入って数十年ぶりの好成績を上げています。

ある新興国通貨バスケットへの投資戦略は、年初来リターンが約18%と2005年以来の高水準です。


好調の最大の理由は、市場のボラティリティー(変動率)が予想外に低いこと。

イラン戦争による原油高にもかかわらず、世界経済が底堅く、相場が大荒れにならずに済んでいます。

キャリートレードは、相場が急変すると金利差の稼ぎが一気に吹き飛ぶ弱点があるため、「相場が穏やか」であること自体が、この戦略の追い風になるのです。

ドル相場が今年は安定していることも、これを支えています。


市場参加者の見方とリスク

シティグループやゴールドマン、JPモルガンなど大手がこぞって有効性を指摘。

JPモルガンは「為替のボラティリティーが低いことから、今後も好成績を維持する見込み」としています。


ただし、リスクも忘れてはいけません。

思い出したいのが2024年8月です。日銀が想定以上に利上げに動くとの見方から相場が急変し、円が急騰。

投資家は借りた円の返済を急ぎ、ポジションを一斉に巻き戻して、世界の市場が一時混乱しました。

円は今なお主要な「借りる通貨」であり、ヘッジファンドの円売りは2007年以来の高水準に近いだけに、何かのきっかけで巻き戻し(急な円高)が起きるリスクは残っています。


もっとも、ヌビーンのクーパー氏は「2024年夏との比較は参考になるが、過度に強調すべきではない」とし、無秩序な巻き戻しの再発は考えにくいとの見方。

また、投資家は円だけに頼らず、ユーロやスイスフランなど借りる通貨を分散する「全天候型」の動きも広げています。


スタンダード・バンクのバロー氏が最も警戒するのは、FRBが事前のシグナルなしに利上げすること

これが起きれば、低ボラティリティーの前提が崩れ

キャリートレードの巻き戻し→急な円高、という展開もあり得ます。





まとめ — トレードで気をつけたい3つのこと

① 163円台は「2つのエンジン」で進んだ円安

ファンダメンタルズに基づくドル高と、投機の円売りが同時に効いています。

次のめどは165円との声。節目でのストップロスの巻き込みにも注意しましょう。


② 「介入警戒はあるが、打ちにくい」局面 

理由のあるドル高で変動率も低く、当局は介入しにくい状況です。

口先介入の効果も薄れています。

ただし165円接近や急変時には実弾のリスクが高まる点は忘れずに。


③ キャリートレードの巻き戻しリスクに備える 

好調な今こそ、急変時の反動は大きくなりがち。

FRBの不意の利上げや日銀会合が引き金になり得ます。

円安に傾けるなら、損切りラインを決めて臨みましょう。


7月末には日銀会合とFOMCが控えています。

円安が止まるのか、それとも165円を目指すのか
——重要な局面です。

ぜひ落ち着いて相場を見守ってみてくださいね。





【付録】用語のかんたんおさらい

  • 有事のドル買い:戦争や紛争など不安が高まったとき、安全とされるドルが買われる動きのこと。
  • ストップロス:損失を限定するための自動的な損切り注文。節目で連鎖すると相場が一方向に走ります。
  • ファンダメンタルズ:金利や物価、財政など、相場の土台となる経済の基礎的条件。
  • 口先介入:実際の売買ではなく、当局者の発言で相場をけん制すること。
  • ボラティリティー(変動率):値動きの大きさ。低いとキャリートレードの追い風になります。
  • キャリートレード:低金利の通貨を借りて高金利の通貨・資産に投資し、金利差で稼ぐ手法。円安の一因になります。
  • ネットショート:売り持ちが買い持ちを上回っている状態。円のネットショートは投機筋の円売りの強さを示します。
  • 為替介入:急すぎる為替変動をおさえるため、通貨当局が市場でドルや円を売買すること。



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