PPIも予想下回り利上げ観測後退|有事のドル買いとの綱引きでドル円162円、ウォーシュ・クック発言とピムコの視点をやさしく解説
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CPIに続きPPIも予想を下回り、米利上げ観測がさらに後退。
一方で米国の5日連続イラン空爆による「有事のドル買い」がドルを支え、ドル円は162円ちょうど近辺で綱引きが続いています。
「弱い物価と有事のドル買い、どっちが勝つ?」
「フォワードガイダンス縮小の妙味とは?」
——この記事を読めば、その答えがすっきり整理できます。
むずかしい言葉は一つずつかみくだいていくので、どうぞ気楽に読み進めてくださいね。
まずは全体像から(先に結論をお伝えします)
- PPIも予想を下回り、米利上げ観測がさらに後退
— ドル売り材料です - 米国は5日連続でイランを空爆、有事のドル買いがドルを下支え
— ドル売りと綱引きです - その綱引きで、ドル円は162円ちょうど近辺でもみ合い
— 方向感が定まりにくい地合いです
「弱い物価(円高)」と「有事のドル買い(円安)」
——この2つの力の綱引きが、今の相場のすべてです。
それでは、一つずつ見ていきましょう。
1. ドル円は162円台前半 — 綱引きでもみ合い
まずは足元の相場から。
16日の東京市場で、円は対ドルで一時162円ちょうど近辺まで上昇しています。
米国の利上げ観測後退によるドル売りが円を押し上げる一方、中東情勢の緊迫による有事のドル買いがドルを支え、綱引きの展開です。
株式市場は反落。
日経平均は一時1900円超下げました。
前日の米国市場で半導体関連株の下げが目立ったことが、投資家心理を冷やしています(マイクロンやサンディスクが8%超下落)。
一方で、自動車や医薬品、小売りなど内需株は堅調で、TOPIXは底堅く推移しています。
この日は台湾のTSMCの決算発表も控え、半導体株の値動きが注目されました。
三井住友信託銀行の山本威氏は
米国のイランへの攻撃がドルのサポートになっているとしつつ、「日本の通貨当局による介入の可能性がなくなったわけではない」と指摘。
ドル円はもみ合いが続くと予想しています。
ここで一つ、初心者の方に知っておいてほしい点があります。
ドル円は162円近辺で「膠着(こうちゃく)」しているように見えますが、対ドル以外では円安が一段と進んでいるのです。
日本の低金利や拡張財政への警戒から、貿易のウエートに基づく「円インデックス(円の総合的な実力)」は、直近の最安値を更新しています。
つまり、「ドル円が動かない=円が強い」わけではなく、ドルも弱含むなかで円もそれ以上に弱い、という状態。
ドル円という1つのペアだけを見ていると、円の本当の弱さを見落としてしまう、という好例ですね。
2. 昨夜の米PPI — 予想を下回り、インフレ緩和を示唆
今回の主役は、昨夜発表された6月の米PPI(生産者物価指数)です。
前回のCPIに続き、こちらも予想を下回りました。
PPIとは(おさらい)
PPIは、企業が販売するモノやサービスの価格を示す「川上(生産者)の物価」
私たち消費者が買う「川下」のCPIに先行しやすいため、インフレの先行指標とされます。
結果は「予想を下回る」
ポイントを整理します。
- コアPPI(前年比):4.7%上昇(市場予想5.1%を下回る)
- 総合PPI(前月比):0.3%低下(市場予想は横ばい)。ガソリン価格が12%下落したことが主因
- 総合PPI(前年比):5.5%上昇(市場予想6.2%を下回る)
イラン戦争が再び激化する前に、川上段階での物価圧力が和らいでいたことが示されました。
エネルギー価格が前月比6.4%下落し、今年インフレ圧力となっていたデータセンターや防衛関連の分野でも上昇が鈍化しています。
相場への影響と市場の見方
CPIに続くPPIの下振れで、市場では利上げ観測がさらに後退。
米長期金利が低下し、ドルが売られやすくなりました。
米スワップ市場が織り込む年内の利上げ回数は、1.2回から1回程度へ低下しています。
- ブルームバーグ・エコノミクスのトロイ・デューリー氏は
「今回のデータを踏まえると、FRBが今後数回の会合で政策金利を据え置くだけの、十分落ち着いた水準にとどまる可能性が高い」と分析。 - ただし、「中東情勢は再び緊迫しており、こうした落ち着きは長続きしない可能性がある」との警戒も示されています。
前回お伝えした「CPIとPPIの合わせ技」でいえば、両方とも弱く出たことで、「インフレは当面落ち着いている→利上げは急がない」という見方が定着しつつあります。
これがドル売り・円高の方向に働いているわけですね。
なお、同じ15日に公表されたFRBの地区連銀経済報告(ベージュブック)でも、景気は「わずか」から「緩やか」な拡大にとどまり、物価は緩やかに上昇、と報告されました。
ただし、企業の物価見通しは地区によってばらつきがあり、「燃料コストの見通しを巡る不確実性が高まっている」と複数の地区が指摘。
足元の物価は落ち着いていても、この先の原油次第では読めない、という慎重な空気がにじんでいます。
3. ウォーシュ議長の発言 — 「AIの物価上昇は必ずしもインフレ的でない」
FRBのウォーシュ議長は15日、上院銀行委員会で興味深い見解を示しました。
「AIインフラの整備に伴う物価の上昇は、必ずしもインフレ的とは言えない」というものです。
どういう意味か
少しかみくだきましょう。
AIブームでデータセンター建設などが急増し、コンピューターチップの価格が上がっています。
ふつうなら「物価上昇=インフレ=利上げ」と考えますが、議長はこれを区別しました。
理由は、AIは時間とともに供給を増やし、生産性を高めるから。
つまり、AI関連の値上がりは「供給が追いつけば収まる一時的なもの」であり、戦争のように経済の供給力を縮ませる悪いインフレとは違う、という考え方です。
議長は「賃金も、生産性の向上に伴って一段と上昇するはずだ」とも述べています。
市場参加者の見方
この発言は、ややハト派(利上げに慎重)寄りと受け止められました。
前日(14日)には「高インフレを容認しない」とタカ派的に語っていた議長が、AI由来の物価上昇には寛容な姿勢を見せたためです。
「統計上の物価は今後12カ月上昇するだろうが、それがインフレ的かはFRBが判断する」という言い方で、AIの値上がりを理由に慌てて利上げはしない、というニュアンスがにじみました。
弱い物価指標と合わさり、利上げ観測後退を後押しする材料となっています。
4. クック理事の発言 — 「インフレ鈍化が見えなければ行動の用意」
一方で、FRB内にはタカ派の声も根強くあります。
クック理事は15日、「インフレ鈍化の兆候が近く見られなければ、私は行動を起こす用意がある」と発言しました。
「行動」とは、利上げのことです。
発言のポイント
クック理事は、現在は「根強いインフレのリスク」が「労働市場軟化のリスク」を上回っているとの認識を示しました。
1年前は雇用を重視すべきだと考えていたが、今はほぼすべての指標が労働市場の安定を示している
——だからこそ、リスクの重心はインフレ抑制に傾いている、というのです。
AI投資や中東紛争による供給ショックが物価を押し上げる可能性も指摘しました。
市場参加者の見方
ここで大切なのは、FRB内で見方が割れているという点です。
ウォーシュ議長やウィリアムズ総裁が「インフレに比較的楽観的」なのに対し、クック理事のように「インフレ警戒」を強める当局者もいます。
ただし、クック理事も冷静さは保っています。
今週のインフレ指標について「あくまで1カ月分のデータに過ぎず、1カ月だけでトレンドは形成されない」と述べ、「FOMCには時間をかける余地がある」としました。
つまり、タカ派の当局者ですら「すぐ動く」とは言っていないわけです。
この「急がないが警戒は解かない」という空気が、相場の綱引きを生んでいます。
5. 米国、5日連続でイラン空爆 — ホルムズ海峡の対立が深刻化
相場のもう一方の力が、中東情勢です。
米軍は15日、イランへの追加空爆を実施し、これで5日連続の攻撃となりました。
深まる対立
トランプ大統領は、イランがホルムズ海峡での船舶攻撃を停止し、航行再開に応じるまで「空爆を強化し続ける」考えを表明。
米軍は海上封鎖も再開し、イランへ向かうタンカーをミサイルで阻止しました。
原油相場は上昇し、北海ブレント原油は一時1バレル=85ドルを突破。
今週の上昇率は13%に達しています。
一方、イランは譲歩の姿勢を見せていません。
「米国がイランの体制を受け入れるまで、ホルムズ海峡は封鎖されたままとなる」と表明しています。
国際海事機関(IMO)も、海峡は商船が航行するには依然として非常に危険だとの認識を示しました。
市場参加者の見方 — 「有事のドル買い」がドルを支える
この中東緊迫が、有事のドル買いを通じてドルを下支えしています。
戦争や紛争で世界の不安が高まると、安全とされるドルが買われるためです。
つまり、今の相場はこういう構図です。
弱い物価(CPI・PPI)がドルを押し下げる一方、中東の有事のドル買いがドルを押し上げる。
この2つの力が拮抗し、ドル円は162円近辺でもみ合っているのです。
さらに原油高は、日本にとって貿易赤字を通じた円安要因でもあります。
物価はインフレ鈍化を示しても、原油高がこの先のインフレ再燃をちらつかせる
——中東情勢からは、引き続き目が離せません。
6. ピムコが説く「フォワードガイダンス縮小」の妙味
最後に、少し上級者向けの視点を、やさしく解説します。
世界最大級の債券運用会社ピムコのアンドリュー・ボールズ氏が
ウォーシュ議長の「フォワードガイダンス縮小」を逆手に取った投資の考え方を示しました。
フォワードガイダンス縮小で何が起きる?
おさらいすると、フォワードガイダンスとは、中央銀行が金利の先行きを前もって示すこと。
ウォーシュ議長はこれを縮小・廃止する方針です。
その結果、市場は「次の金利がどうなるか」を経済指標の一つひとつから読み取るしかなくなり、指標が出るたびに相場が大きく動きやすくなります。
つまり、変動性(ボラティリティー)が高まるわけです。
ピムコの戦略 — 「5〜10年債が最も持ちこたえる」
ボールズ氏は、この変動が大きくなる環境で、最も影響を受けるのは短期債だとみています。
金利の先行き観測に直接ゆさぶられるからです。
一方で、5年債から10年債のゾーンが最も持ちこたえやすく、魅力的だと指摘します。
理由は「利回り(インフレ調整後の実質利回り)が、現在の水準では非常に魅力的」だから。
米10年債利回りは約4.6%と、年初より約50bpも高い水準にあります。
値動きの荒れやすい短期債を避け、利回りの妙味がある中期債を選ぶ
——これが、ピムコの考える「ガイダンス縮小時代」の身の処し方です。
初心者へのヒント
FXトレーダーの私たちにとっての学びは、「発信の減ったFRBのもとでは、指標発表のたびに相場が振れやすくなる」という点です。
ボールズ氏自身、「不確実性の高い環境で、なぜ将来について多くを約束する必要があるのか」と、議長の方針に一定の理解を示しています。
裏を返せば、これからは指標一発で相場が動く場面が増える、ということ。
指標発表の前後は、いつも以上に慎重な構えを心がけたいですね。
まとめ — トレードで気をつけたい3つのこと
① 「弱い物価」と「有事のドル買い」の綱引きを意識する
CPI・PPIの下振れは円高材料、中東の有事のドル買いは円安材料。
どちらが優勢かで162円近辺の方向が決まります。バランスが崩れた瞬間に大きく動きます。
② FRB内の「意見の割れ」に注目
ウォーシュ議長は楽観、クック理事は警戒。
当局者ごとの温度差が、発言のたびに相場を揺らします。
ただし全員「急がない」点は共通しています。
③ 「ガイダンス縮小=指標に敏感」な相場に備える
発信が減ったFRBのもと、CPIやPPIなどの指標一発で相場が振れやすくなっています。
発表前後はポジションを小さめに、損切りラインを決めて臨みましょう。
インフレ鈍化と中東緊迫という相反する材料の綱引き
——方向感が定まりにくい局面が続きます。ぜひ落ち着いて相場を見守ってみてくださいね。
【付録】用語のかんたんおさらい
- PPI(生産者物価指数):企業が販売するモノ・サービスの価格。「川上」の物価で、CPIの先行指標とされます。
- コア指数:変動の大きい食品・エネルギーを除いた数字。物価の「基調」を示します。
- 有事のドル買い:戦争や紛争など不安が高まったとき、安全とされるドルが買われる動きのこと。
- フォワードガイダンス:中央銀行が今後の政策方針を前もって示すこと。ウォーシュ議長は縮小・廃止方針です。
- ボラティリティー(変動性):値動きの大きさ。高いほど相場が荒く、リスクも高まります。
- 実質利回り:金利からインフレ率を差し引いた、実質的な利回り。中期債の魅力を測る目安になります。
- ホルムズ海峡:世界の原油輸送の大動脈。緊張が高まると原油が上がりやすくなります。
- 為替介入:急すぎる為替変動をおさえるため、通貨当局が市場でドルや円を売買すること。



