ドル円157円台後半へ再上昇|介入後の円の動きと「FIMAレポ」を巡る異例の要請をやさしく解説
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155円台まで急伸した円が、早くも157円台後半まで押し戻されています。
「協調介入の効果はもう終わり?」
「FIMAレポって何?」
「今後どこまで戻る?」
——この記事を読めば、その答えがすっきり整理できます。
むずかしい言葉は一つずつかみくだいていくので、どうぞ気楽に読み進めてくださいね。
まずは全体像から(先に結論をお伝えします)
- ドル円は一時157円67銭まで再上昇
— 介入以外に円を買う材料が乏しいためです - ベッセント米財務長官がFRBに異例の制度変更を要請
— 日本の介入資金を支える「FIMAレポ」の拡大です - 円高の定着には「日銀の行動」が不可欠との見方
— 介入だけでは持続しにくいと指摘されています
それでは、一つずつ見ていきましょう。
1. ドル円、一時157円67銭まで再上昇
まずは値動きから。
4日の東京市場で、円は対ドルで157円台半ば〜後半に下落し、一時157円67銭をつけました。
3日につけた高値155円23銭からは、2円以上も円安に戻ったことになります。
ここで振り返っておきましょう。
7月末に164円近辺だった円は、日米の協調介入で一気に155円台まで急伸しました。
しかし、そこからわずか1日で157円台後半まで押し戻されている
——これが今の状況です。
理由はシンプルで、為替介入以外に円を買う材料が乏しいからです。
介入への警戒感は根強く残っているものの、それだけでは円高は続きにくい、というわけですね。
株式市場は下落。
AI関連の一角に買いが入る一方、協調介入や日銀の利上げ加速への懸念が重しになっています。
債券は上昇(金利は低下)。
原油価格の上昇が一服し、米長期金利が低下した流れを引き継ぎました。
2. なぜ円は押し戻されたのか — 市場参加者の見方
介入から数日で円安に戻り始めた背景を、専門家の見方とともに整理します。
「構造的な円安要因」は変わっていない
三井住友信託銀行の山本威氏は
「介入への警戒感は強いが、すぐに再び介入があるとは思えず、ドルはじりじりと値を戻す」と予想します。
そのうえで、「構造的な円安要因は変わっていないため、介入の継続や日銀の利上げ加速がなければ、円高局面は155円割れを見ずに終わるかもしれない」と語っています。
ここでいう「構造的な円安要因」とは、これまで連載でも追ってきた
①日本の財政悪化への懸念、
②日米の大きな金利差、
③日銀の政策が物価に後れを取る(ビハインド・ザ・カーブ)懸念の3つです。
介入はこれらを直接解決するものではありません。
だからこそ、介入が止まれば円が売られやすくなるのです。
もっとも、今回の介入が持つ意味は小さくありません。
日米による円買いの協調介入は28年ぶりの出来事です。
「日米が本気で連携している」というメッセージは、投機的な円売りを抑える効果があります。
実際、市場では「いつ次の介入が来るか分からない」という警戒から、以前のように強気で円を売り込みにくくなっています。
ただし裏を返せば、その警戒感が薄れた瞬間に円安が再開しやすいということでもあります。
介入の「持続性」への疑念
もう一つの論点が、介入資金の規模です。
日本の財務省は、7月30日と31日の2日間で14兆円近くを介入に投じたとみられています。
単日で約8兆4500億円という過去最大級の規模でした。
これだけの資金を短期間で使ったことで、市場では「この勢いをいつまで続けられるのか」という疑念も出ています。
介入には原資(外貨準備)が必要で、無限に続けられるものではないからです。
日銀の利上げ観測が高まる
一方で、介入は思わぬ副産物も生んでいます。
「介入だけでは円安は止まらない→ならば日銀が利上げするしかない」という連想から、日銀の利上げ前倒し観測が強まっているのです。
債券市場では、目先の政策に反応する2年債利回りだけでなく、利上げの到達点(ターミナルレート)を映す5年債利回りも上昇しました。
SMBC日興証券の奥村任氏は、
これはインフレ加速が意識されているためだと指摘します。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の大塚崇広氏も
ビハインド・ザ・カーブ懸念で拡大してきた金利差の縮小はわずかで、「金利先高観の後退は限定的」との見方です。
株式市場にとっては、この利上げ観測と円高警戒がダブルの重しになっています。
野村アセットマネジメントの石黒英之氏は、
AI関連は日米とも決算が良く割安感もあるとしつつ、「日米が協調して再び介入に動くとの警戒や、日銀が利上げを加速するとの観測が重しになっている」と述べています。
3. ベッセント長官の「異例の要請」— FIMAレポとは
今回、市場関係者の間で大きな話題になっているのが、ベッセント米財務長官がFRBに求めた制度変更の要請です。
少し専門的ですが、やさしく解説します。
FIMAレポファシリティーとは
FIMAレポファシリティーとは、海外の政府や中央銀行が、保有する米国債を担保にしてドル資金を借りられるFRBの制度です。
2020年のコロナ禍で創設され、21年に恒久化されました。
なぜこれが重要かというと、円買い介入にはドルが必要だからです。
日本は世界最大の米国債保有国ですが、介入資金を作るために米国債を大量に売れば、米国債の利回りが急変動してしまう恐れがあります。
そこで、売らずに「担保に入れて借りる」ことができれば、市場を混乱させずに資金を確保できる、というわけです。
片山財務相も3日、今後はこの制度を活用する方針を示しました。
ベッセント長官の要請と、その「異例さ」
ここからが本題です。
ベッセント長官は2日、この制度を日本の取り組みを支える重要な仕組みだとしたうえで、「今後数カ月以内に、その規模を拡大することを推奨する」と、SNSで公に述べたのです。
これが「異例」とされるのは、財務長官がFRBの制度変更を公の場で求めること自体がまれだからです。
中央銀行の独立性を尊重するため、通常はこうした話は水面下で調整されます。
元米財務省高官のマーク・ソーベル氏は「極めて異例だ」と指摘。
「私が在職していた頃、財務長官はFRBの金融政策運営に関わる問題について公の場で発言することを極力避けていた。仮に必要が生じても、FRB議長と非公開で話し合い、水面下で対応していただろう」と述べています。
ウォルフ・リサーチのトービン・マーカス氏も
「財務省がこの種のFRBの制度変更を、公表前に水面下で調整するのではなく、公然と求めた前例は思い当たらない」と語りました。
市場参加者の見方 — 賛否と限界
この制度拡大について、専門家の見方は分かれています。
肯定的な見方として、AEIのスティーブン・カミン氏は、
日本が円買いのために米国債を売却する場合、その影響が米国債利回りに波及するのを最小限に抑えることはFRB自身の利益にもかなうと指摘。
クロックタワー・グループのウォーラースタイン氏も、
「借り入れは短期で、米国債を担保とし、利払いも伴うため、FRBにリスクはない」と述べています。
一方、限界を指摘する声もあります。
エバコアISIのストラテジストは、
この制度の利用上限が1取引先あたり1日600億ドル(約9兆4300億円)で、日本が7月30日だけで実施したとみられる介入額をわずかに上回る程度にとどまると指摘。
継続的な介入への有効性は限定されるとしています。
さらに重要な警告も。
「利用額に上限がある制度への注目が、逆効果となるリスクがある」というのです。
もし円高の実現に大規模な米国債売却が必要になれば、「市場が米国と日本の円高支援へのコミットメント(本気度)を試す動きにつながりかねない」と論じています。
つまり、「上限があると分かった以上、投機筋がその限界を試しに来るかもしれない」というわけです。
制度の存在が安心材料になる一方で、限界を可視化してしまうという皮肉な側面があるのですね。
なお、この制度は本来、市場のストレス時の「安全網」として設計されており、提供金利が3.75%と民間のレポ市場より意図的に高く設定されています。
日常的な資金調達や継続的な介入に使う想定ではない、という点も押さえておきましょう。
実際、この制度の利用実績は普段ごくわずかです。
FRBの最新データによると、7月29日までの1週間の利用残高は平均で約600万ドルにとどまっていました。
直近でまとまった利用があったのは2月初めで、それでも30億ドルです。
そこへ日本が数兆円規模で使うとなれば、まさに前例のない使われ方になります。
また、この制度は恒常的な調達手段ではないため、借り入れを続けるには借り換えを繰り返す必要がある点も、継続的な介入には向かない理由の一つです。
4. 「153円まで円高もあり得るが、一時的」— TDの分析
今後の見通しについて、示唆に富む分析が出ています。
TDセキュリティーズのストラテジストによる見立てです。
「153円もあり得る、しかし持続しない」
TDは、「モメンタム(勢い)によって、ドル円は一時的に153円まで下落する可能性がある」と予想。
153円をつければ、今年2月以来の安値水準です。
ただし、こう続けます。
「日銀の対応や米財務省による全面的な支援がない限り、この水準を持続的に下回る展開は想定していない」。
同社はドル円の年末予想を159円に据え置き、日銀の次回利上げ時期も12月との見通しを維持しました。
米財務省が「全面的に乗り出す」可能性は低い理由
興味深いのは、TDが「米財務省が円安阻止に全面的に乗り出す可能性は低い」とみている点です。理由として5つを挙げています。
- 日米の二国間貿易関係
- 「米国売り(Sell America)」の流れが再燃するリスク
- 米国の信認低下リスク
- 政治的な配慮
- 市場全体にシステミックな混乱を招くリスク
さらにTDは、米国が協調介入に全面的にコミットする場合、「それは米国が事実上、他国通貨を自国の国家信用で支えることを意味する」と指摘。
そして、日銀が利上げに消極的な中で協調介入の効果が上がらなければ、「金融市場における米国の覇権は一段と揺らぐリスクがある」と警告しています。
米国にとっても、この介入は「タダではない」ということですね。
だからこそ、最終的には日銀が動くかどうかが、円安基調の反転を決める
——これが多くの専門家に共通する見立てです。
5. その他の注目材料
最後に、本日の相場に関わるその他の材料を整理します。
■ 米ISM製造業指数が約4年ぶり高水準
米供給管理協会(ISM)の製造業総合景況指数が、約4年ぶりの高水準となりました。
AIなどの旺盛な設備投資で、世界の景気は底堅さを保っています。
米経済の強さは、金利面からドルを支える材料です。
■ 中東は緊張緩和へ
トランプ大統領がイラン攻撃を見送る方針を示し、原油価格も低下傾向です。
原油安はインフレ圧力を和らげ、米金利の低下を通じてドル高圧力を弱める方向に働きます。
円にとっては、数少ない追い風です。
■ 日本の10年国債入札
この日は10年国債入札が実施されました。
奥村氏は「弱めの結果になることを警戒している」とし、大塚氏も「無難か、やや低調な結果」を予想。
財政への不安が残るなか、国債が順調に消化されるかは、円の信認を測る一つの目安にもなります。
まとめ — トレードで気をつけたい3つのこと
① 介入の効果は「時間稼ぎ」— 構造要因は不変
155円台から157円台後半へ、わずか1日で2円以上戻しました。
財政懸念・金利差・ビハインド・ザ・カーブという3つの円安要因は残ったままです。
② 「155円割れ」を見ずに終わる可能性も
山本氏は、介入の継続か日銀の利上げ加速がなければ、円高局面は155円割れを見ずに終わるかもしれないと指摘。
TDも一時的な153円はあり得るが持続しないとみています。
円高の「賞味期限」を意識しましょう。
③ カギはやはり日銀
米財務省が全面的に乗り出す可能性は低いとの分析もあり、円安反転には日銀の行動が不可欠です。
利上げ観測の変化を示す2年債・5年債利回りの動きにも注目しておきましょう。
歴史的な協調介入の後、相場が本当に変わったのかが試される局面です。
ぜひ落ち着いて見守ってみてくださいね。
【付録】用語のかんたんおさらい
- 協調介入:複数の国の通貨当局が足並みをそろえて行う為替介入。単独より効果が大きくなりやすいです。
- FIMAレポファシリティー:海外の当局が保有する米国債を担保にドル資金を借りられるFRBの制度。介入資金の調達に使えます。
- 外貨準備:国が保有する外貨資産。円買い介入の原資になります。
- ビハインド・ザ・カーブ:物価の変化に対して、金融政策の対応が後手に回ってしまう状態。
- ターミナルレート:利上げの最終的な到達点。5年債利回りなどに反映されます。
- モメンタム:相場の勢い。方向が出ると、その流れが自己増殖的に続くことがあります。
- ISM製造業指数:米国の製造業の景況感を示す指標。50が拡大と縮小の分かれ目です。
- システミックな混乱:金融システム全体に波及するような大きな混乱のこと。



