氷見野副総裁講演で市場は「がっかり売り」|ドル円159円台前半、PCE通過とジャクソンホールの見どころ


 









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日銀の氷見野副総裁が講演し、9月利上げの確率は9割近くを維持。

それでも円は買われませんでした。


「なぜ利上げ観測が強いのに円安?」

「昨夜のPCEは何を示した?」

「ジャクソンホールの注目点は?」
——この記事を読めば、その答えがすっきり整理できます。


むずかしい言葉は一つずつかみくだいていくので、どうぞ気楽に読み進めてくださいね。





まずは全体像から(先に結論をお伝えします)

  1. 氷見野副総裁は利上げ路線を維持、ただし「明確な予告」はなし — 市場では「がっかり売り」が出ました
  2. 昨夜のPCEはコアが予想通り、実質消費は横ばい — FRBが据え置く余地が広がりました
  3. ジャクソンホールは昨年と一変、各国がインフレ警戒を強調へ — 最大の注目はウォーシュ議長です

それでは、一つずつ見ていきましょう。





1. ドル円は159円台前半で推移

まずは足元の相場から。

円は対ドルで159円台前半で推移しています。

朝方は159円12銭まで円高が進む場面もありましたが、その後は伸び悩みました。


背景には2つの力があります。

米PCEを受けた米金利上昇がドルを支える一方、氷見野副総裁の講演で日銀の利上げ観測が意識され、円の下値も限られる
——この綱引きです。


債券市場では、日銀の利上げを織り込む形で中長期金利が上昇

新発10年債利回りは2.895%まで上がりました。

株式では、金利上昇の恩恵を受ける銀行株や保険株が買われ、TOPIXを押し上げています。




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2. 氷見野副総裁の講演 — なぜ「がっかり売り」が出たのか

発言の中身

氷見野良三副総裁は講演で、引き続き金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく姿勢を示しました。

物価の上振れリスクをこれまで以上に意識し、毎回の会合で議論する、との内容です。


つまり、利上げ路線そのものは維持されました。

実際、金融市場が織り込む9月会合での利上げ(0.25ポイント)確率は9割近く、年内ではほぼ1.7回分の利上げを織り込んでおり、講演前とほぼ同水準です。


それなのに円が売られた理由

ここが今回のポイントです。SBI FXトレードの上田真理人氏は、こう指摘します。

「今後の利上げについてはっきりとした発言はなく、どちらかというとハト派的な印象だった。円のがっかり売りが出たようだ」


つまりどういうこと? 

市場はすでに9月利上げを9割織り込んでいます

この状態では、「利上げする」と言うだけでは新しい材料になりません。

円が買われるには、市場の期待を上回るタカ派サプライズ
——たとえば「9月に利上げする」と明言したり、より速いペースを示唆したりが必要でした。


期待が高いほど、それを超えないと失望売りになる

これは相場の基本原理です。前回もお伝えした「日銀が次の利上げを9月にはっきり言うことはないだろう」という予想どおりの展開でしたが、それでも市場は物足りなさを感じたわけですね。


市場参加者の見方

  • 三井住友信託銀行の山本威氏:
    氷見野副総裁を「きょう一番の注目のトピック」とし、市場は9月利上げへのより明確な示唆が出るかに注目していると指摘。
    利上げ期待が高いなかでハト派的な発言があれば、市場が反応するリスクがあると述べていました。

  • 上田氏:
    午後の記者会見で利上げの道筋について質問が出るとみられ、「内容が不明瞭であれば、再び円売りにつながるだろう」との見方。

  • ANZの町田広之氏:
    講演を警戒してドルの持ち高を落とす動きが出ているとし、ジャクソンホールも控えるため「ハーフスイングくらいで、フルスイングはできない」と表現しました。


債券市場の反応も示唆的

SMBC日興証券の丸山凜途氏は、

債券相場について「期待先行の動き」があったと指摘。

先行きの利上げを織り込む形で中長期金利が上昇する一方、超長期債は日銀のビハインド・ザ・カーブ懸念が後退して買われたとしています。


これは重要なサインです。

「日銀が後手に回る」という懸念が薄れれば、財政・物価への不安が和らぎます

長い目で見れば、円の信認にとってプラスの変化です。




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3. 昨夜の米PCE — コアは予想通り、消費は停滞

結果の整理

7月のPCE価格指数は、次の通りでした。

  • コアPCE(前月比):0.2%上昇(予想0.2%、予想通り)
  • コアPCE(前年比):3.3%上昇(予想3.3%、予想通り)
  • 総合PCE(前月比):0.2%上昇(予想0.1%をやや上回る)
  • 総合PCE(前年比):3.7%上昇(予想3.6%をやや上回る)
  • 実質PCE(インフレ調整後の個人消費):前月比横ばい(予想通り)


前回お伝えしたとおり、焦点はコアでした。

そのコアが前月比・前年比ともに予想通りとなり、インフレの落ち着きが確認された形です。

一方で見逃せないのが、実質個人消費が横ばいだった点。

5月・6月は力強い伸びを示していましたから、7月に消費が失速したことになります。

財への実質支出は0.8%減、サービスは0.3%増でした。


相場の反応と市場参加者の見方

PCE発表後、米国債利回りとドルは上げ幅を拡大しました。

9月FOMCでの利上げ確率は40%近くで、発表前とほぼ変わっていません。

  • リージョンズ・ファイナンシャルのリチャード・ムーディー氏:
    「7月の数字は抑制されたものだったが、FRBにとって唯一の問題はインフレ率が目標を上回っていることだ」「インフレは一段と加速していくようにはみえないが、目標に向かって低下していくようにもみえない

  • ブルームバーグ・エコノミクス:
    「基調的インフレのペースが比較的緩やか、実質支出も低調」として、「FRBは年内いっぱい政策金利を据え置く」と予想


FXへの影響 — つまりどういうこと?

一見「弱いインフレ=ドル安」のはずが、ドルは上げ幅を拡大しました。

なぜでしょうか。

理由は、総合PCEがわずかに予想を上回ったことに加え、コアが予想を下回らなかったためです。

市場は「下振れ」を一部期待していたため、予想通りにとどまったことで利上げ観測の後退が進まなかったわけですね。


ムーディー氏の言葉が本質を突いています。

「加速もしないが、低下もしない」
——この膠着状態が続く限り、FRBは動きにくく、ドルも大きくは崩れにくい。

当面のドル円が159円前後で膠着している理由も、ここにあります。


なお、消費の停滞は中長期的にはドル安要因です。

個人消費は米経済の柱であり、失速が続けば利上げどころではなくなります。

ガソリン価格が再び1ガロン4ドルを上回っていることもあり、今後の消費関連指標は要チェックです。





4. ジャクソンホール — 昨年と一変、テーマは「インフレ警戒」

27〜29日、ワイオミング州でジャクソンホール会合(カンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム)が開かれます。


昨年との違い

昨年:パウエル前議長が利下げへの道筋をつけ、欧州の当局者は追加緩和を議論していました。

  今年:各国当局者がインフレへの警戒を強調するとみられています。

背景は、イラン戦争、AI投資ブーム、異常気象による物価上昇圧力です。

すでにECBは6月に0.25ポイント利上げし、9月にも再利上げの見方が広がっています。

オーストラリア、ノルウェー、インドネシアも今年利上げしました。


ドイツのスピロス・アンドレオプロス氏は、

世界の中央銀行当局者は慎重な判断に傾き、インフレをあえて取りたくないリスクとして扱う可能性が高い。次の供給ショックがいつ起きるかは誰にも分からない」と述べています。


各国で温度差がある理由

興味深いのは、対応の緊急度に差がある点です。

ソシエテ・ジェネラルのスバドラ・ラジャッパ氏は、

その差はエネルギーの輸入依存度によると指摘。「欧州と日本は、中東情勢と原油価格の影響をはるかに受けやすい」と述べています。


ゴールドマン・サックスのヤリ・ステーン氏も、

米英の政策金利はなお景気抑制的な水準にあるとし、「FRBとイングランド銀行は、ショックがどのように展開するかを見極める時間的な余裕がより大きい」との見方です。


FXへの影響:この温度差が、通貨の強弱を生みます。

エネルギー輸入国である日本は、インフレ対応を迫られやすい=利上げ圧力がかかりやすいわけです。

9月の日銀利上げ観測が9割まで高まっている背景にも、この構図があります。


最大の注目はウォーシュ議長

今年の主役は、やはり28日のウォーシュFRB議長の講演です。

同氏は就任以来、今後の金利の道筋について方向性を示すことに消極的でした。

一部の投資家は、このコミュニケーション戦略がFRBの信認を損ない、世界的な債券売りの一因になったと指摘しています。


今回は、インフレ率を2%に戻すためにどう政策運営するのかを明確にする機会です。

逆に言えば、曖昧なままなら再び債券が売られ、長期金利が上昇するリスクがあります。


なお、日銀の植田総裁は今年の会合を欠席します。

9月会合を前に、植田氏の考えを探る機会が一つ減ることになります。


FXへの影響としては、日銀の姿勢を測る材料が減るぶん、9月2日の高田委員、10日の増委員の講演の重要性が高まると言えます。





5. その他の材料 — エヌビディア決算通過

エヌビディアは強気の業績見通しを示し、朝方はAI・半導体関連が買われました。

しかしその後、「材料出尽くし」との見方から利益確定売りが膨らみ、日経平均は下落に転じています。


野村証券の沢田麻希氏は、

足元で特段の悪材料が出ているわけではないとしつつ、「エヌビディア決算を通過して材料見尽くしとの見方から、関連銘柄に利益確定売りが出ている」と分析。

一方で「利上げ観測が継続しており、金融株は堅調だ」と話しています。


FXへの影響:AI関連への期待が一巡すれば、株式市場のリスク選好が弱まり、リスク回避の円買いが出やすくなります。

ただし現状では、日本株の下落は限定的で、為替への影響も限られています。

AI相場の失速は、円高方向のリスク要因として頭の片隅に置いておきましょう。





今日の要点整理

期待が高いほど「予想通り」は失望になる 

9月利上げを9割織り込んだ市場では、利上げ路線の確認だけでは円は買われません。

円高には、期待を超えるタカ派サプライズが必要です。


PCEは「加速も低下もしない」を確認 

コアは予想通りで、FRBは動きにくい状態。

この膠着が続く限り、ドルも大きくは崩れにくい構図です。

ただし実質消費の停滞は中長期のドル安要因です。


ジャクソンホールは「曖昧さ」がリスク 

ウォーシュ議長が明確な方向性を示さなければ、再び債券売り・長期金利上昇を招く可能性があります。

28日の講演内容に注目です。


日銀の利上げ観測という円高材料はそろっていますが、それを織り込みきった後に何が出るかが次の焦点です。

ぜひ落ち着いて見守ってみてくださいね。




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今回の新出用語

  • がっかり売り:期待していた材料が出なかったときに、失望から売られること。「材料出尽くし」と似た動きです。
  • 実質PCE:物価変動の影響を除いた個人消費支出。消費の「本当の勢い」を示します。
  • ハーフスイング:相場の格言的な表現で、確信が持てないため取引を控えめにすること。
  • エネルギー輸入依存度:エネルギーをどれだけ輸入に頼っているか。高い国ほど原油高の影響を受けやすくなります。

※「ビハインド・ザ・カーブ」「良い金利上昇と悪い金利上昇」など既出の用語は、用語集ページをご覧ください。



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