ウォーシュ議長のタカ派宣言でドル円160円台へ|介入15兆円の公表と中東再燃、9月「日米同時利上げ」の可能性
このブログで用いている相場の見方と予想の仕方はこちら
【FXファンダメンタルズ分析法動画】
ジャクソンホールでウォーシュ議長がインフレ抑制への決意を明言し、米利上げ観測が急上昇。
ドル円は159円台後半から160円台へ乗せました。
「なぜ講演でここまで動いた?」
「介入15兆円の公表は何を意味する?」
——この記事を読めば、その答えがすっきり整理できます。
むずかしい言葉は一つずつかみくだいていくので、どうぞ気楽に読み進めてくださいね。
まずは全体像から(先に結論をお伝えします)
- ウォーシュ議長のタカ派発言で米2年債利回りが急上昇 — 9月利上げの織り込みが35%から60%程度へ跳ね上がりました
- ドル円は160円台へ、協調介入以来1カ月ぶり — ただし介入警戒がブレーキになっています
- 日銀の9月利上げ確率は88% — 「日米同時利上げ」の可能性が意識され始めました
それでは、一つずつ見ていきましょう。
1. ドル円は159円台後半から160円台へ
まずは値動きから。
円は対ドルで159円台後半まで下落した後、160円台に乗せました。
7月末に日米が協調介入して以来、約1カ月ぶりの水準です。
きっかけは、28日のウォーシュFRB議長の講演です。
インフレ抑制への強い姿勢が示され、米金利が急上昇。
ドル買いが加速しました。
加えて、米軍が30日にイランのロケット発射装置を攻撃したことで原油価格も上昇。
連載でお伝えしてきたとおり、原油高は日本の輸入コスト増を通じた円安要因でもあります。
ただし、160円台では日本の通貨当局による介入への警戒感が一定のブレーキになるとみられています。
「上がりやすいが、上げきれない」
——これが当面の構図です。
2. ウォーシュ議長の「タカ派宣言」— 市場が待っていたメッセージ
何を語ったのか
ウォーシュ議長は、5年余りにわたり2%目標を上回るインフレを抑え込む決意を改めて強調しました。
ポイントは3つです。
- 7月のPCE価格指数が前年比3.7%上昇したことについて、深刻さを和らげるような姿勢は見せず、基調的な動向に「有意な改善」がないと明言
- 2%の物価目標は「確固たる不変のもの」と考えていると表明
- フォワードガイダンス(政策の事前予告)には引き続き距離を置きつつ、インフレ率が「十分な速さで」2%に向けて鈍化していることを確実にする必要があると発言
なぜここまで市場が動いたのか
発言内容自体は、目新しいものではありませんでした。
それでも、市場は大きく反応しました。
- 米2年債利回りが12bp上昇して4.35%へ。これは少なくとも2010年以降のジャクソンホール会合では最大の上昇幅です
- 9月FOMCでの利上げ織り込みは、35%程度から60%程度へ急上昇(スワップ市場では50%超)
- 来年3月までに計2回の利上げが織り込まれました
つまりどういうこと?
ここが今回いちばんの学びどころです。
理由は、市場が抱えていた「不信」が解消されたからです。
連載で追ってきたとおり、ウォーシュ議長は7月のFOMC後の会見で説明不足を批判され、インフレ目標そのものが変わるかもしれないと示唆したことで、物価安定への取り組みに疑念が生まれていました。
その結果、米長期債利回りは約20年ぶりの高水準へ上昇し、ドルが売られ、金やビットコインといった代替資産に資金が向かっていたのです。
今回、議長はその疑念を正面から打ち消しました。
だからこそ、内容が「目新しくない」にもかかわらず、市場は大きく動いたわけですね。
市場参加者の見方
- バンガードのブライアン・クイグリー氏:
「議長は信認を立て直す意図を持って今回の講演に臨んだ」「市場の反応を見る限り、それは非常に効果的だった」 - DWSアメリカズのジョージ・カトランボーン氏:
「これは市場が7月のFOMCでまさに求めていたフォワードガイダンスだ」「予想をはるかに超える内容で、賃金インフレを退け、政策は実際にはそれほど景気抑制的ではないとしている。かなり大きな180度の方向転換だ」 - バークレイズ:
政策見通しを変更し、9月に0.25ポイント利上げ、12月にも追加利上げと予想。従来は「今年は利上げなし」でした
注意すべきリスク — 「同じことの繰り返し」
一方で、慎重な見方も出ています。
MUFGセキュリティーズのジョージ・ゴンカルベス氏:
「まずは市場がどう落ち着くかを見極めたい」「強硬な発言を続けながら、今後の会合で利上げを見送るのであれば、これまでと同じことの繰り返しだ」
ラファー・テングラーのバイロン・アンダーソン氏:
「ウォーシュ氏が市場に再び持ち込んでいるのはボラティリティーだ」「市場は同氏が臨む会合のたびに見方を二転三転させている」
FXへの影響:ここが実践的なポイントです。
急速に織り込みが進んだぶん、反転するリスクも高まっています。
7月のFOMC後も、タカ派発言の後に据え置きが続いて失望売りが起きました。
今回も、実際に9月に利上げしなければ、ドルが急反落する可能性があります。
「発言」と「実行」の区別は、前回もお伝えしたとおりです。
3. 介入15兆円超の公表 — 費用対効果への疑念
もう一つ、円相場に直結する重要な発表がありました。
財務省は28日、7月30日からの1カ月間に、月次で過去最高となる15兆円以上を円買い介入に投じたと公表しました。
つまりどういうこと?
前回の記録は、4月末から5月にかけての11兆7349億円でした。
今回はそれを大きく上回る規模です。
日米協調介入という「異例の連携」に加え、過去最大の資金を投じたことになります。
ところが結果はどうでしょうか。
円は一時155円台まで急伸したものの、1カ月で160円台へ逆戻りしました。
FXへの影響:これが意味するのは、「巨額介入の費用対効果への疑念」です。
15兆円を使っても流れを変えられなかった、という事実が数字で確認されたわけです。
市場では、さらなる介入への警戒感がドルの上昇を一定程度抑える一方で、「介入しても効かない」との見方から円がじり安になる可能性も指摘されています。
介入警戒は下値を支えますが、円を積極的に買わせる材料にはならない
——連載で繰り返しお伝えしてきた構図が、より鮮明になっています。
4. ベッセント長官「アベノミクスは終わった」— 日銀への期待
米国側からも、円相場に関わる注目発言が出ました。
ベッセント米財務長官は30日、日銀の植田総裁が金融政策に関して「正しい行動を取る」と期待していると述べました。
連続利上げを検討すべきかと問われると、「何をすべきか私から彼らに言うつもりはない」としつつ、こう付け加えています。
「リフレ政策だったアベノミクスは恐らく終わりを迎えたと考えているとは言っておきたい」
この発言の重み
つまりどういうこと? これは、米財務長官が日本の金融政策の転換を公に期待した、ということです。
「アベノミクスは終わった」という表現は、大規模緩和の時代が終わり、正常化(利上げ)へ進むべきだというメッセージにほかなりません。
ベッセント氏はこれまでも、日銀が正常化を進めることで円相場が適切な水準を見いだせると繰り返し示唆してきました。
同氏は31日からのG20財務相・中央銀行総裁会議に合わせ、植田総裁と会談する見通しです。
FXへの影響:日本政府にとって、日銀の利上げに反対しにくい環境が一段と強まりました。
協調介入で米国の助けを得た以上、「介入だけに頼らず金融政策でも対応すべきだ」という圧力は避けられません。
円の中期的な支援材料と言えます。
実際、31日午前のスワップ市場では、日銀が9月会合で利上げする確率は88%まで織り込まれています。
「日米同時利上げ」の可能性
ここで面白い構図が見えてきます。9月は日米がともに利上げする可能性が出てきたのです。
- FRB:9月16日のFOMCで利上げ確率60%程度
- 日銀:9月17〜18日の会合で利上げ確率88%
両方が利上げすれば、金利差は変わりません。
むしろ、市場がどちらをより強く織り込んでいるかで、為替の方向が決まります。
現状は日銀のほうが織り込みが進んでいるため、FRBの利上げ観測が高まるほど、相対的にドルが買われやすい
——これが足元の160円乗せの背景です。
トレード上の注意点も明確です。
どちらか一方が「期待外れ」に終わったときの反動が大きい。
9月中旬は、日米の中銀会合が2日違いで並ぶ、極めて重要な局面になります。
5. 中東リスクが再燃 — 原油はブレント90ドル台へ
数週間続いた小康状態に、終止符が打たれました。
米中央軍によると、米軍は30日、ホルムズ海峡に機雷を投下する準備をしていたイランのロケット発射装置を攻撃しました。
これを受け、北海ブレント原油は1バレル90ドルを上回り、WTIも86ドル近辺まで上昇しています。
押さえておきたい実態
ただし、冷静に見ておきたい事実もあります。
米イランの和平合意がなくても、ホルムズ海峡では日量約600万〜800万バレルの原油が輸送されているのです。
イランの準国営メヘル通信も、同国が承認した航路で船舶の通航が「限定的に行われている」と報じており、船舶は通航料を支払っているといいます。
つまりどういうこと?
「完全封鎖」ではなく、「イランの管理下で、コストを払って通っている」状態です。
だからこそ、原油は上昇しても100ドル超えが定着せず、90ドル前後のレンジで振れているわけですね。
FXへの影響:原油高は①日本の貿易赤字拡大→円安要因
②米インフレ懸念→金利上昇→ドル高要因、の二重ルートで働きます。
今回の再燃は、ウォーシュ議長のタカ派発言と同じ方向(円安・ドル高)に効いています。
ただし、攻撃の応酬が本格化して原油が急騰すれば、話は変わります。世界的なリスク回避が強まれば、株安を通じた円買いも出やすくなるためです。
原油90ドル台は「じわり円安」、100ドル超えは「相場全体が荒れる」
——このイメージで見ておくと分かりやすいでしょう。
今日の要点整理
「不信の解消」が最大の材料だった ウォーシュ議長の発言は内容としては目新しくありませんでした。
それでも市場が大きく動いたのは、7月以来くすぶっていたFRBへの疑念が晴れたからです。
相場は「何を言ったか」だけでなく「何が解消されたか」で動く
——この視点は覚えておくと役立ちます。
介入15兆円でも流れは変わらなかった 過去最大の投入額が公表されました。
介入警戒は下値を支えますが、円を買わせる材料ではありません。
実際の反転には、日銀の利上げという実弾が必要です。
9月中旬は「日米同時利上げ」の可能性 FRBが16日、日銀が17〜18日。
どちらか一方が期待を裏切れば、反動は大きくなります。
今から日程を意識しておきましょう。
急速に織り込みが進んだ後だけに、反転のリスクも高まっています。
ゴンカルベス氏の言うとおり、「強硬な発言の後に見送り」となれば、また同じ失望が繰り返されます。
ぜひ落ち着いて見守ってみてくださいね。
今回の新出用語
- ディベースメント取引:通貨の価値低下を見込み、金や暗号資産など代替資産に資金を移す取引のこと。
- 通航料:船舶が特定の海域を通る際に支払う費用。今回はイランが海峡通航の条件として求めています。
- 織り込み:市場が将来の出来事を、あらかじめ価格に反映させること。進みすぎると反転しやすくなります。
- G20財務相・中央銀行総裁会議:主要20カ国の財務相と中銀総裁が集まる国際会議。二国間会談の場にもなります。
※「フォワードガイダンス」「良い金利上昇と悪い金利上昇」など既出の用語は、用語集ページをご覧ください。
運営者情報
運営者:FX研究ブログ
管理者:ブタメン
略歴:管理人はファンダメンタルズ分析をメインとするトレーダー
ドル円をメインに分析解説を行っております。
2025年より当ブログを運営
X:ブタメンFX



