ベッセント長官が円売りをけん制|ドル円153円台、日本の資金が国内に戻る「資金回帰」の現実味
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ドル円が153円台まで下落し、7カ月ぶりの円高水準となりました。
米財務長官が円売りに明確なけん制をかける一方、日本の資金が海外から国内へ戻るという「資金回帰」論も再燃しています。
今の相場を動かしている力と、来週の日銀会合に向けた構え方を整理します。
今日のポイント
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ドル円は153円台前半。8日には152円89銭まで円高が進みました
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米財務長官が円売りをけん制。日銀会合まで円は売られにくい地合いです
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資金回帰論が再燃。ただし実際の資金フローには、まだ変化が出ていません
1. 今の相場水準と、確認すべき指標
ドル円は153円台前半
円は8日に一時152円89銭まで上昇しました。約7カ月ぶりの円高水準です。
その後154円台まで戻したものの、153円台前半で底堅く推移しています。
前回お伝えしたとおり、155円という節目を割り込んだことで円買いの勢いが強まりました。円は今月、主要10通貨のなかで最も上昇しています。
優先度の高い3つの指標
判断材料を絞るなら、次の3つです。
1つ目は、152円89銭という直近の高値。
ここを明確に超えれば円高の勢いが継続していると見られます。
逆に154円台へ戻す場面が増えるなら、巻き戻しが一巡しつつあるサインです。
2つ目は、原油価格。上昇が続く限り、円安方向の力が働きます。
3つ目は、米10年債利回り。
現在4.79%で、先週つけた2023年11月以来の高水準4.82%が目前です。
ここを超えるとドルが支えられやすくなります。
2. ベッセント長官による円売りけん制
「胴元は私だ」
ベッセント米財務長官は8日、テキサス州でのイベントでこう述べました。
「われわれが円について介入を行う際には、日本側や日本銀行がどう動くのか、日本の当局が何をするのかについて、私はかなり正確に把握している」
さらに「今や私が胴元だ」「私には情報の非対称性がある」「私の見方に反対して賭けたいなら、そうしても構わない」とも語っています。
要するに、日本当局と緊密に連携しており次の展開を知っている、それでも円を売るなら勝手にどうぞ、という警告です。
ヘッジファンド出身の同氏らしい、直接的な物言いと言えます。
発言の重みが増している理由
この発言が効くのは、裏づけがあるためです。
ブルームバーグは先週、日銀が17日と18日の決定会合で政策金利を0.25ポイント引き上げる方向に傾いていると報じました。
利上げは通貨高の要因になります。
金利が高い通貨のほうが、保有する妙味が大きくなるからです。
日本が利上げすれば日米の金利差が縮まり、円を売る動機が弱まります。
そこへ米財務長官が「日本の動きを把握している」と公言した。市場は利上げの確度が高いと受け止めます。
この状況で円売りを積み増すのは、リスクに見合わないと判断されやすいわけです。
現実的な構え方
円売り(ドル円の買い)を検討しているなら、日銀会合の結果を待つ判断に合理性があります。当
局が円高を志向すると公言している以上、逆方向のポジションは不意打ちを受けやすい状況です。
円買い(ドル円の売り)についても、すでに7円以上動いた後である点は意識しておきたいところです。
前回お伝えしたとおり、今回の円高はポジションの巻き戻しが主因です。
巻き戻しが一巡すれば勢いは鈍ります。
いずれの方向でも、損切り水準を決めてから入る。
値動きが荒い局面ほど、この差が結果に効いてきます。
3. 「資金回帰」が意味するもの
即座に相場を動かすテーマではありませんが、中長期の円の方向を左右する論点です。
これまでの構図
日本では数十年にわたり超低金利が続いてきました。
国内運用では十分なリターンが得られないため、日本の投資家は海外へ資金を振り向けてきました。
その規模は巨大です。
日本が保有する米国債は約1兆1000億ドル(約169兆円)で、海外勢では最大。
海外証券全体ではおよそ5兆ドルにのぼります。
米国債を買うにはドルが必要です。
つまり円を売ってドルを買う。
この資金流出が、長年の円安の構造的な要因のひとつでした。
前提が変わりつつある
日本の10年国債利回りが先週、1996年以来初めて3%に達しました。
国内で3%が得られるなら、為替リスクを取って海外に出る必要性は薄れます。
日本の投資家が資金を国内に戻せば、海外資産を売って円を買うことになります。
これが本格化すれば、円高は一段と加速します。
バンガード・アセット・マネジメントのアレス・クートニー氏は、
「国内金利の上昇が続けば、日本の資金が徐々に国内にとどまる可能性がある」と予想。
それは円や日本国債だけでなく、米国債や欧州債市場、さらには世界の資金調達環境にとっても重大な意味を持つと指摘しています。
ドイツ銀行は7月、今後数年間の上限シナリオとして、国内資産への資金シフトが最大4400億ドルに達する可能性があると試算していました。
資金フローには、まだ変化がない
一方で、実際のデータは動いていません。
ドイツ証券の大森翔央輝氏によると、今年1月から8月にかけて、生命保険会社による外国債券の売却はほぼ見られませんでした。年金基金の動きを反映する信託銀行は、むしろ海外資産を積み増しています。
利回り面では、すでに条件が整っているにもかかわらず、です。
ドルのヘッジコストが3%近辺となるなか、米10年債の為替ヘッジ後利回りは円ベースで約2%と、日本国債を約1ポイント下回っています。
投資家は資金を戻す代わりに、為替ヘッジの比率を下げて対応しています。
新規の外債投資のヘッジ比率は、2024年の62%から今年は約40%へ低下しました。
動かない理由と、転換の条件
背景にあるのは、金利がどこまで上がるか見通せないことです。
債券は金利が上昇すると価格が下がります。
今3%で買っても、さらに上昇すれば含み損を抱えます。
だから機関投資家は慎重姿勢を崩していません。
みずほ銀行の中島將行氏は、
10年国債利回り3%は過去の水準と比べても十分魅力的だとしたうえで、「利回りの絶対水準よりも安定性が重要だ」と指摘。
投資家が利回りは安定しつつあると確信すれば、「同じ3%でもはるかに強い需要を呼び込む可能性がある」と述べています。
マールボロ・インベストメント・マネジメントのジェームズ・エイシー氏は、
「大規模な資金回帰が起きる条件は十分そろっている。あとはきっかけ一つだ」との見方です。
懐疑的な声もあります。
ソシエテ・ジェネラルのスティーブン・スプラット氏は、「ある程度の資金回帰が起きるリスクはあるが、誰が資金を戻すのか明確ではない」と述べています。
確認しておきたい3つの材料
このテーマを追うなら、次の3点が判断材料になります。
1つ目は、GPIFの資産構成見直しに関する発表。
上野賢一郎厚生労働相は8日、引き続き適宜適切に検証が行われていると認識していると述べました。正式発表があれば、大きな円高材料です。
2つ目は、日本の10年国債利回りの推移。
上昇が止まり水準が安定してくれば、資金回帰の条件が整います。
3つ目は、財務省が週次で公表する対外証券投資のデータ。
日本の投資家が海外証券を買い越しているか売り越しているかが分かります。売り越しへの転換が、実際の資金回帰が始まったサインになります。
4. 中東情勢の緊迫と原油高
円高材料がそろうなか、逆方向に働くのが原油です。
米軍は9日早朝、イランの石油基地があるカーグ島などを攻撃しました。
イランもクウェートとバーレーン沖のタンカーに避難を警告しています。
8日にはサウジアラビアのエネルギー施設がイエメンのフーシ派から攻撃を受け、操業停止に追い込まれました。
これを受けて米原油先物は上昇しています。
原油高が円安につながる2つの経路
1つ目は、日本の輸入コストです。
エネルギーの大半を輸入する日本は、原油を買うためにドルを調達します。
価格上昇はそのまま円売り・ドル買いの増加につながります。
2つ目は、米国のインフレです。
原油高は物価を押し上げ、FRBに利上げ圧力をかけます。
金利上昇はドル買い要因です。
今回はカーグ島という積み出し拠点が標的となりました。
供給への直接的な打撃が意識されやすく、原油の上振れリスクは高まっています。
円買いポジションを持つ場合、中東発のニュースが出たら原油価格を確認する。
この手順を挟むだけで、想定外の損失をかなり回避できます。
今日のまとめ
日銀会合まで、円売りは分が悪い局面です。
米財務長官の公言と利上げ観測が重なり、逆方向のポジションは不意打ちを受けやすくなっています。
円買いも、追いかける局面ではありません。
すでに7円以上動いた後であり、主因はポジションの巻き戻しです。
押し目を待つ判断に合理性があります。
資金回帰は「条件は整いつつあるが、まだ動いていない」段階です。
GPIFの発表、10年国債利回りの安定、対外証券投資のデータ。
この3つが実際の転換を教えてくれます。
17日と18日の日銀会合が最大の山場です。
それまでは原油と米金利を確認しながら、ポジションを傾けすぎない。
それが現実的な構え方だと考えます。
今回の新出用語
- 資金回帰(レパトリエーション):海外に投資していた資金を自国に戻すこと。外貨を売って円を買うため、円高要因になります。
- 為替ヘッジ:海外資産に投資する際、為替変動の影響を避けるための取引。コストがかかるため、比率を下げると為替リスクを取ることになります。
- ヘッジコスト:為替ヘッジにかかる費用。日米の短期金利差でおおむね決まり、金利差が大きいほど高くなります。
- 対外証券投資:日本の投資家による海外の株式・債券の売買を示す統計。財務省が週次で公表しています。
※「円キャリートレード」「ストップロス」など既出の用語は、用語集ページをご覧ください。
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