ドル円が153円台へ、半年ぶり高値を更新|155円突破で何が変わったのか、日銀利上げ観測とGPIF思惑を読み解く

 











このブログで用いている相場の見方と予想の仕方はこちら


【FXファンダメンタルズ分析法動画】



 


 ドル円が155円の節目を割り込み、153円台半ばまで急落しました。

2月以来、半年ぶりの円高水準です。

介入でも突破できなかった壁が、なぜ今崩れたのか。

「円高トレンドに転換したのか」
——この記事を読めば、その答えがすっきり整理できます。

むずかしい言葉は一つずつかみくだいていくので、どうぞ気楽に読み進めてくださいね。





まずは全体像から(先に結論をお伝えします)

  1. ドル円は153円台半ばまで下落し、半年ぶりの高値を更新
  2. きっかけは155円割れによるストップロスの連鎖。薄商いが動きを増幅しました
  3. 賃金は約30年ぶりの高い伸び。日銀の9月利上げ確率は約97%へ

それでは、一つずつ見ていきましょう。





1. ドル円は153円台半ばへ、半年ぶりの円高水準

まずは値動きの整理から。

8日の東京市場で、円は対ドルで153円台半ばまで上昇しました。

2月以来、約半年ぶりの高値更新です。


流れを振り返っておきましょう。

先週は一時160円39銭まで下落していました。

そこから7日に節目の155円を割り込み、一時154円06銭へ。


そして8日朝には153円台へ一段高となっています。

わずか数日で7円近い円高が進んだ計算です。


株式は反落しました。

円高が輸出企業の業績を圧迫するとの懸念から、自動車や機械などが売られています。

債券は先物が上昇しました。




マネックス証券 FXPLUS


2. なぜ155円を突破できたのか

明確な材料はなかった

意外に思われるかもしれませんが、今回の急伸に明確なきっかけとなる材料は見当たりませんでした。

7日の夕方以降、目立った材料がないなかで円が急伸したのです。

では、何が起きたのでしょうか。専門家が挙げるのは、次の2点です。


ひとつは、米国がレーバーデーの祝日で薄商いだったこと。

参加者が少ないぶん、値動きが増幅されやすい状況でした。前回の記事で「薄商いの日は油断せずに」とお伝えしたとおりの展開です。


もうひとつが、155円という節目を割り込んだことです。

取引に詳しいトレーダーによると、155円を下回る水準に設定されていた大口のストップロス注文が執行され、オプションディーラーがドル売りを迫られたことも上昇に拍車をかけました。


155円という水準の重み

ここが今回いちばんのポイントです。

なぜ155円がそれほど重要なのでしょうか。


ステート・ストリートの駱正彦氏は、

円が155円を割り込んだことは重要だとし、過去の為替介入後にはこの水準が円相場の下値の目安となっていたと述べています。


思い出してみてください。

この半年、通貨当局が巨額の円買い介入を実施しても、155円を突破することはできませんでした。

8月3日の高値も155円23銭です。

つまり155円は、介入をもってしても越えられなかった壁だったわけですね。


その壁が崩れた意味は小さくありません。

相場の世界では、長く意識されてきた節目を突破すると、そこから先は目立った抵抗がなくなり、動きが一気に加速することがあります。


三菱UFJ信託銀行の酒井基成氏は、

下値めどを2月の154円とみたうえで、そこを割り込めば「152円台前半まで目立った下値めどはない」と話しています。

実際すでに154円は割り込んでおり、152円台が視野に入る展開です。


つまりどういうことか

整理すると、こうなります。

今回の円高は、新しい材料が出たから起きたのではありません。

これまで積み上がっていた円売りポジションが、節目突破をきっかけに一気に巻き戻された結果です。


あおぞら銀行の諸我晃氏も、ストップロスのドル売り・円買いをきっかけに、投機筋の円キャリーポジションの巻き戻しが進んでいると指摘しています。


連載で繰り返しお伝えしてきたとおり、ポジションが一方向に偏っているほど、逆方向に動いたときの巻き戻しは激しくなります。

7月には164円近辺まで円安が進み、円売りが大量に積み上がっていました。

その反動が、今まさに出ているわけです。




ウィブル証券


3. 賃金が約30年ぶりの高い伸び — 日銀利上げの追い風

円高を後押しする材料も出ました。

8日発表の7月の毎月勤労統計です。


内容は予想を大きく上回る

名目賃金にあたる1人当たりの現金給与総額は、前年同月比4.7%増となりました。

市場予想の3.8%増を大きく上回り、前月の4.0%増から伸びが加速。

1997年1月以来、約30年ぶりの高水準です。


基本給にあたる所定内給与も4.1%増と、1992年4月以来の高い伸びとなりました。

物価変動を反映した実質賃金も2.4%増と、7カ月連続でプラスです。

伸び率は2021年5月以来の大きさとなりました。


なぜ円高材料なのか

つまりどういうことでしょうか。

賃金の上昇は、日銀の利上げを後押しします。


日銀が目指しているのは、賃金と物価が緩やかに上昇していく好循環です。

賃金がしっかり伸びていれば、利上げしても経済が耐えられると判断しやすくなります。

逆に賃金が弱ければ、利上げは家計を苦しめるだけになってしまいます。


野村証券の岡崎康平氏は、

「所定内給与が結構上がっており、明るい動きだ」と指摘。

好調な企業収益や人手不足が背景にあるとし、「経済と物価のいずれも上振れリスクを意識させる内容として日銀も受け取るだろう」と述べています。


実際、金利スワップ市場が織り込む日銀の9月利上げ確率は約97%まで上昇しました。

ほぼ確実視されている状態です。


FXへの影響としては、日米金利差の縮小期待が一段と高まるということ。

連載で長く追ってきた「円高転換にはやはり日銀の利上げが必要」という構図が、数字の裏づけを得つつあります。





4. GPIFを巡る思惑も円を支える

もうひとつ、円買いの背景として挙げられているのがGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の資産構成見直しを巡る思惑です。


仕組みをやさしく整理

GPIFは公的年金を運用する世界最大級の機関投資家です。

運用資産は巨額で、その配分がどう変わるかは市場に大きな影響を与えます。


もしGPIFが国内債券への配分を増やせば、これまで海外資産に向かっていた資金の一部が国内に戻ることになります。

海外投資には外貨が必要ですから、その分の円売りが減る、あるいは円買いが発生する可能性があるわけです。


これが円の支援材料と見られている理由です。


注意したい点

ただし、ここは冷静に見ておく必要があります。

前回もお伝えしたとおり、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田啓介氏は、

日銀の利上げ加速、財政スタンスの変化、GPIF観測について「いずれも臆測で、相場の強さを信じ切れないところがある」と指摘していました。


GPIFの資産構成見直しは、まだ正式に発表されたものではありません。

期待が先行している段階です。

実際に発表されれば一段の円高材料になり得ますが、逆に「見直しなし」となれば、期待の剥落で円が売られる可能性もあります。





5. 円高トレンドへの転換なのか

ここが多くの方が気になる点でしょう。

専門家の見方は、慎重です。


諸我氏は、ポジションの巻き戻しが進んでいると指摘したうえで、こう述べています。

「日米金利差や貿易赤字など構造的な円安要因は残っており、円高トレンドに転換したわけではない」

つまりどういうことでしょうか。整理すると、こうなります。


日米の金利差は、日銀が0.25ポイント利上げしても依然として大きいままです。

日本が1.25%になっても、米国は3.5〜3.75%。差は2ポイント以上残ります。


また、原油高による貿易赤字も続いています。

エネルギーを輸入に頼る日本にとって、原油が高止まりする限り、実需の円売りは発生し続けます。


つまり今回の円高は、構造要因が変わったからではなく、偏ったポジションが解消される過程で起きている、ということです。

巻き戻しが一巡すれば、勢いは鈍る可能性があります。


FXへの影響としては、こう構えておくのが現実的です。

短期的には円高の勢いが続きやすい一方、中期的には構造要因が再び意識される場面もあり得ます。

トレンド転換と決めつけず、節目ごとに状況を確認していく姿勢が大切です。


なお、酒井氏はニューヨーク市場が休場の際には相場が大きく動く傾向があるとして、下押し圧力には引き続き警戒が必要だと指摘しています。

オプション市場では、円のボラティリティーが1月以来の高水準に上昇しており、値動きが荒くなりやすい地合いです。





6. その他の材料 — 介入警戒と海外要因

三村淳財務官は4日、為替市場への対応について「引き続き臨戦態勢というのは変わらない」と語っていました。

これは円安を止めるための発言でしたが、ここまで円高が進むと、話は変わってきます。


当局が問題視しているのは「過度な変動」です。

円安方向だけでなく、急激な円高も本来は望ましくありません。

ただし現状は、当局が長く望んでいた方向への動きですから、当面は静観するとみられます。

円高が行き過ぎた場合にどう対応するかは、今後の注目点です。


海外に目を向けると、金利は世界的に上昇基調が続いています。

ドイツではザクセン・アンハルト州議会選挙で極右政党のAfDが圧勝したこともあり、10年国債利回りは約15年ぶりの高水準に接近しました。


政治的な不安定さは、財政への懸念を通じて金利上昇につながります。

連載でお伝えしている「悪い金利上昇」ですね。

世界的に金利上昇圧力が続くことは、株式市場や為替の波乱要因になり得ます。


また、原油価格の上昇も続いており、インフレ懸念や金利高を通じて相場の圧迫要因になっています。

円高材料がそろうなかで、原油高は数少ない逆方向の力です。




マネックス証券 FXPLUS


今日の要点整理

節目の突破は、それ自体が材料になります。

155円は介入でも越えられなかった壁でした。

そこを割り込んだことで、ストップロスの連鎖が起き、7円近い円高につながりました。

長く意識されてきた水準ほど、突破後の動きは大きくなりやすいと覚えておきましょう。


賃金4.7%増は日銀利上げの強い後押しです。

9月の利上げ確率は約97%。金利差の縮小期待が、円の下値を固めています。


ただし、トレンド転換とは限りません。日米金利差と貿易赤字という構造要因は残ったままです。

巻き戻しが一巡した後の動きを、慎重に見極めたいところです。

次の下値めどは152円台前半という見方が出ています。

17〜18日の日銀会合まで、値動きが荒くなりやすい地合いが続きます。ぜひ落ち着いて見守ってみてくださいね。




ウィブル証券


今回の新出用語

  • ストップロス:損失を限定するための自動的な損切り注文。節目付近に集中しやすく、突破すると連鎖して相場が走ります。
  • オプションディーラー:オプション取引を仲介する業者。相場変動時に、持ち高調整のため実際の売買を迫られることがあります。
  • 上値抵抗線と下値めど:相場がそこから先へ進みにくい価格帯のこと。突破されると、次の目安まで一気に動くことがあります。
  • 所定内給与:残業代や賞与を除いた基本給にあたる部分。賃金の基調を見るうえで重視されます。

※「円キャリートレード」「良い金利上昇と悪い金利上昇」など既出の用語は、用語集ページをご覧ください。



 マネックス証券 FXPLUS

ウィブル証券

  



運営者情報

運営者:FX研究ブログ
管理者:ブタメン

略歴:管理人はファンダメンタルズ分析をメインとするトレーダー
ドル円をメインに分析解説を行っております。
2025
年より当ブログを運営

XブタメンFX