利上げ後も円安が続く理由|ドル円156円台後半、連休の薄商いと植田総裁が挟まれた二重圧力
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日銀は利上げしましたが、円は週間で2%以上下落しました。今後のペースについて明確な指針が示されなかったためです。
しかも日本は23日まで連休が続きます。取引量が減るなかで、値動きが荒くなる可能性が指摘されています。
失望の中身と、植田総裁が置かれた立場を整理します。
今日のポイント
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ドル円は156円台後半。18日は一時1.3%下落し、週間では2%以上の円安です
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日銀の利上げペースに関する指針が示されず、失望が広がりました
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連休で流動性が低下。値動きが荒くなり、介入リスクも意識されています
1. ドル円は156円台後半で推移
円は18日、対ドルで一時1.3%下落し、156円88銭で取引を終えました。週間では2%以上の下落です。
今月8日には152円89銭と2月以来の高値をつけていましたから、そこから約4円の円安が進んだことになります。
レートチェックが入った
18日には、日銀が市場参加者に為替水準を照会する「レートチェック」を実施したと報じられました。
レートチェックは、当局が銀行に対して現在の為替水準を確認する行為です。実際の介入に踏み切る前の段階として行われることが多く、市場へのけん制の意味を持ちます。
ただし今回は、円の下げ幅を縮小させるにとどまりました。
2. 市場が失望した中身
利上げしたのに円安が進んだ理由
前回お伝えしたとおり、日銀は政策金利を1.25%へ引き上げました。それでも円は売られています。
理由は2つあります。
ひとつは、採決で政策委員2人が反対したこと。もうひとつが、植田総裁が今後の利上げペースについてほとんど手掛かりを示さなかったことです。
強弱入り混じったメッセージ
植田総裁の発言は、方向性が読み取りにくいものでした。
金融政策運営の局面が変わったとの認識を示し、タカ派的な姿勢をうかがわせました。10月の追加利上げや、いずれかの時点で通常より大幅な利上げに踏み切る可能性も排除していません。
しかし同時に、現在の引き締め局面におけるターミナルレート、つまり金利の最終到達点を見極めるのは難しいとも述べています。
前回お伝えしたとおり、市場が知りたいのは「どこまで上げるか」です。そこが不明なままでは、金利差がどこまで縮まるのか計算できません。
市場の織り込みが後退
結果として、利上げ期待は後退しました。
スワップ市場が織り込む10月末の会合での利上げ確率は20%未満です。一方、12月会合での利上げ確率は約90%となっています。
つまり市場は「次は12月」と見ており、10月の連続利上げはほぼ想定していません。
専門家の見方
キャピタル・エコノミクスのジェームズ・ライリー氏の指摘が、状況を端的に表しています。
「最近は円が勢いをつけて日銀会合を迎えても、たいていの場合、日銀がその流れを完全に止めてしまっている」
そのうえで、「円が対ドルで大きく持ち直すかどうかは、米国側の動きにかかっていると言ってよさそうだ」と記しました。
HSBCのジョーイ・チュー氏も、「最近のイベント、つまり協調介入とわずか3カ月後の2回目の利上げは、ドル円相場を安定させるにとどまり、下落基調に転じさせるものではないと現在はみている」と述べています。
FXへの影響
つまり、こういうことです。
日銀の利上げには、円安を止める効果はありました。7月に164円まで進んだ円安は、現在156円台です。
しかし、円高のトレンドを作り出すには至っていません。それには、FRBの利上げが止まるか、日銀がFRBを上回るペースで動く必要があります。
現時点でそのどちらも見込みにくい以上、当面は円安圧力が残る、というのが市場の見立てです。
3. 植田総裁が挟まれた二重の圧力
今回の局面を理解するうえで欠かせないのが、植田総裁が置かれた立場です。
相反する2つの要求
植田総裁には現在、異なる方向から要求を受けています。
ひとつは、ベッセント米財務長官です。金融引き締めの加速を求めており、7月下旬には円を下支えするため日米協調の円買い介入を実施しました。
もうひとつが、高市首相です。経済成長を重視しており、急速な利上げには慎重な立場です。18日の利上げに反対票を投じた2人の審議委員は、いずれも高市首相が任命した人物でした。
専門家の見方
日銀で為替課長を務め、現在はリコー経済社会研究所所長の竹内淳氏は、「植田総裁にとって非常に難しいかじ取りだ。高市首相とベッセント米財務長官、双方からの圧力の間に挟まれている」と指摘。
そのうえで、「どう見ても、日本のインフレ圧力が米国や欧州と比べて最も弱いことは否定できない。他の中央銀行と競うように日銀が利上げをしても勝ち目はない」と述べました。
ドイツ証券の大森翔央輝氏も、植田氏の仕事について、投資家と米政府、日本政府の全てを同時に満足させられるようなペースは存在しないと指摘しています。
米国の圧力には「意外な効用」もある
一方で、興味深い見方もあります。
野村総合研究所の木内登英氏は、ベッセント氏による公然とした利上げ支持により、日銀は「国内では政治からの介入から解放されている。そこが大きい」と話しました。
高市政権が強く反対しているタイミングでは、これまで利上げを後ずれさせることもあった。しかし今回それをせずに済んだのは米国のおかげだ、という見立てです。
実際、ブルームバーグの調査に回答したエコノミストの約80%は、ベッセント氏が支持した為替介入によって、政府は日銀の金融引き締めに反対しにくくなった可能性が高いとみています。
ベッセント氏の本当の関心
ここは押さえておきたい点です。
ベッセント氏が日本に求めているのは、日本経済のためではありません。同氏が優先しているのは、日本での混乱が米国債市場に波及するのを防ぐことです。
今週、日本の動向を巡り米国にとって何が重要かと問われた同氏は、32兆ドル規模の米国債市場を真っ先に挙げました。「円が強くなれば、日本政府が為替介入の資金を捻出するために米国資産を売却する必要もなくなる」と述べています。
日本は外国勢として最大の米国債保有国で、保有額は1兆ドルを超えます。
楽天証券経済研究所の愛宕伸康氏は、ベッセント氏の今後の発言は結局金利次第だと指摘。「日銀が何を言っても、米長期金利の上昇が収まるまでは同じ発言を繰り返して来ると思う」と述べました。
来年の人事という論点
もうひとつ、中長期の材料があります。
タカ派の審議委員である高田創氏と田村直樹氏が、ともに来年7月に退任予定です。
高市首相が任命する後任2人が、18日に反対票を投じた2人と同様にハト派的であれば、9人で構成する政策委員会の勢力バランスが大きく変わる可能性があります。
FXへの影響としては、日銀の正常化に残された時間が限られているという見方につながります。人事によって利上げが止まるなら、円高の余地も限られることになります。
4. シルバーウィークの流動性低下
何が問題なのか
日本は23日まで祝日が続きます。取引が再開するのは21日ですが、この期間は市場参加者が大きく減ります。
連載で繰り返しお伝えしてきたとおり、参加者が減れば取引の流動性が低下します。売買の量が少ないため、通常なら動かない規模の注文でも値が大きく動くようになります。
つまり、値動きが荒くなりやすい期間です。
介入リスクが高まる理由
ここが実務的に重要な点です。
流動性が低いということは、当局にとっては介入の効果を増幅させる好機でもあります。少ない資金で大きく動かせるためです。
実際、4月下旬から5月上旬のゴールデンウィーク前後にも同様の機会があり、円が160円を超えて下落した後、日本は市場介入に踏み切りました。
18日にレートチェックが報じられたことも、この文脈で見る必要があります。当局が再び介入に踏み切るリスクは、決して低くありません。
具体的にどう構えるか
現実的な対応を整理します。
円安方向のポジションを持ったまま連休に入る場合は、介入による急変を想定しておく必要があります。損切り注文を置いていても、流動性が低い状況では想定より不利な価格で約定する可能性があります。
ポジションを軽くする、あるいは一度手じまうという判断にも合理性があります。
逆に円高方向を狙う場合も、薄商いでは方向感が出にくく、思わぬ値動きに振られる可能性があります。
いずれにせよ、この期間は通常より慎重な建玉管理が求められます。
5. ヘッジファンドのポジションに変化
見逃せないデータがあります。
ヘッジファンドは9月15日までの1週間に、2025年7月以来初めて円に対して強気に転じました。介入後の投資家心理の変化を示す動きです。
つまり、これまで円を売っていた投機筋が、円買いに回ったということです。
ただしリスクも
ところが、そのタイミングで日銀が期待を裏切りました。
よりタカ派的な姿勢を期待していた市場参加者を失望させたことで、この強気への転換はトレーダーのポジションが裏目に出るリスクを伴っています。
FXへの影響としては、円買いポジションの損切りが円安を加速させる可能性がある、ということです。
連載で繰り返しお伝えしてきた原則です。ポジションが一方向に傾いた直後に逆方向の材料が出ると、巻き戻しが値動きを増幅させます。連休の薄商いと重なれば、その影響はさらに大きくなります。
6. 米国側の材料
カシュカリ総裁の発言
米ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は20日、インフレ率は依然として高すぎるとの認識を示しました。
注目すべきは、その中身です。「米国民が日々感じているインフレは、原油価格だけの問題ではない。経済のあらゆる分野に及んでいる」と述べ、サービス分野にもインフレの兆候があると指摘しました。
同総裁は7月に据え置き決定へ反対した3人のうちの1人です。
FXへの影響
FRB内で「インフレは原油だけの問題ではない」との認識が広がれば、追加利上げの根拠が強まります。
原油価格が下がってもインフレが収まらないなら、金利で対応するしかないためです。
これは米金利の高止まりを通じて、ドルを支える材料になります。日銀のペースが緩やかにとどまるなか、日米の金利差が縮まりにくい状況が続く可能性があります。
もっとも同総裁は、紛争が沈静化すれば成長が勢いを増し、インフレ率が低下することを期待するとも述べています。中東情勢の行方は、引き続き重要な変数です。
今日のまとめ
日銀の利上げは、円安を止める効果はありました。しかし円高のトレンドを作るには至っていません。ライリー氏の言うとおり、円が大きく持ち直すかは米国側の動き次第という局面です。
植田総裁は、利上げを求める米財務長官と、成長を重視する首相の間に挟まれています。どちらも満足させるペースは存在しない、というのが専門家の見方です。
連休中は流動性が低下します。値動きが荒くなりやすく、当局にとっては介入の好機でもあります。ポジションを持ち越す場合は、急変を想定した管理が必要です。
ヘッジファンドが円買いに転じた直後の失望という構図も、巻き戻しのリスクを高めています。
取引再開は24日です。それまでの値動きには、特に注意しておきたいところです。
今回の新出用語
- レートチェック:通貨当局が銀行に為替水準を照会する行為。介入の前段階とされ、市場へのけん制になります。
- 流動性:取引のしやすさ。参加者が減ると低下し、少ない注文でも価格が大きく動くようになります。
- ターミナルレート:利上げサイクルの最終到達点。ここが見えないと、金利差の行方も計算できません。
- 建玉管理:保有ポジションの量やリスクを調整すること。相場が荒れやすい局面ほど重要になります。
※「良い金利上昇と悪い金利上昇」「キャリートレード」など既出の用語は、用語集ページをご覧ください。
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