国債買い戻し3倍でも金利上昇|ドル円153円台、今夜のECBとPPIをどう見るか
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米財務省が国債の買い戻しを当初予定の3倍に増やしたにもかかわらず、米長期金利は上昇しました。
市場の期待に届かなかったためです。
一方で円は153円台を維持し、円ショートの巻き戻しが続いています。
今夜はECBの政策金利発表と米PPI。明日にはCPIも控えます。
順に整理します。
今日のポイント
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ドル円は153円台半ば。円ショートの巻き戻しが相場の主題です
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今夜のECBは0.25ポイント利上げがほぼ確実。焦点はその先の姿勢
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米PPIは明日のCPI待ちで反応が限定される可能性があります
1. ドル円は153円台半ばで推移
円は対ドルで153円台半ばで推移しています。
前日のニューヨーク市場では米金利の上昇を受けてドルが反発しました。
それでも円の下値は限られています。
三井住友信託銀行の山本威氏は、
ドルが反発しても「円ショートの巻き戻しが相場の主題」であることは変わらないと指摘しています。
野村証券の後藤祐二朗氏も、
米国債買い戻し増額への失望から米金利が上昇したにもかかわらず、ドルは対円で小動きにとどまったと分析しました。
つまり何が起きているのか
通常なら、米金利の上昇はドル買い材料です。
金利の高い通貨のほうが保有する妙味が大きくなるためです。
ところが今回、その効果は限定的でした。
円買い需要のほうが強いからです。
背景にあるのは、日銀の利上げ観測とベッセント米財務長官による円売りけん制。
これまで積み上がっていた円売りポジションが、順次解消されている段階です。
米金利という円安材料が出ても打ち消される。
この地合いが続く限り、円は下がりにくい状況が続きます。
今日の注目材料
日銀の増一行審議委員が福井県金融経済懇談会で講演します。
増氏は政策委員会のなかでは中立寄りとみられている人物です。
その分、タカ派的な発言が出れば意外感が大きくなります。
山本氏は、増氏が利上げに前向きな発言をすれば、円は152円台への上昇もあり得るとみています。
2. 米国債の買い戻し3倍でも金利は上昇
何が起きたのか
米財務省は、ベッセント長官が先月示した増額方針に基づき、当初予定の3倍にあたる60億ドル(約9200億円)の買い入れを発表しました。
前回お伝えしたとおり、買い戻しは政府が市場から自国の国債を買い取る措置です。
買い手が増えれば価格が上がり、金利は下がります。
ところが、利回りの上昇を止めるには至りませんでした。
米10年債利回りは一時2023年11月以来の高水準をつけています。
なぜ効かなかったのか
大和証券の山本賢治氏は、米国債市場の規模に照らせば買い戻し拡大の直接的な効果は限定されるとリポートに記しました。
そのうえで、長期金利の方向を最終的に決めるのはファンダメンタルズと金融政策だと指摘。
市場の焦点はすでに来週のFOMCへ移りつつあるとしています。
連載で繰り返しお伝えしてきた構図です。
財政赤字や原油高によるインフレ圧力という根本原因に手を付けない限り、需給面の対策だけでは金利上昇は止まりません。
FXへの影響としては、米金利の高止まりがドルを下支えする一方、それが財政不安を映した「悪い金利上昇」である以上、ドル買いの持続力は限られるということです。
実際、米金利が上昇してもドル円は小動きにとどまりました。
3. 今夜のECB政策金利
0.25ポイント利上げがほぼ確実
日本時間の今夜、ECB(欧州中央銀行)が政策金利を発表します。
0.25ポイントの利上げがほぼ確実視されており、実施されれば今年2回目です。
G7のなかで最もタカ派的な中銀という位置づけが、改めて鮮明になります。
焦点は「その先」
利上げ自体は織り込み済みのため、市場の関心は年内3回目の利上げに向かっています。
前回お伝えしたとおり、投資家は12月の利上げをおおむね織り込んでいます。
JPモルガンなど複数の金融機関が、追加利上げを見込む方向に予想を変更しました。
ユーロ圏の8月インフレ率は3.3%と、約3年ぶりの高い伸びです。
エネルギー輸入への依存度が高いユーロ圏にとって、中東情勢の長期化と原油高は重い課題になっています。
結果ごとに考えられる値動き
利上げに加えて今後の引き締め継続が示唆されれば、ユーロ買いが進みやすくなります。
ユーロが買われれば相対的にドルが売られ、ドル円の上値を抑える要因になります。
一方、利上げはしても「当面はこれで打ち止め」という姿勢がにじめば、ユーロ売り・ドル買いに振れる可能性があります。
ドル円を取引している方にとっても、ユーロドルの動きは無関係ではありません。
ドルの総合的な強弱を通じて、間接的に影響してくるためです。
4. 今夜の米PPI
直近3回の予想と結果
5月分は前月比1.1%上昇と、予想の0.7%を大きく上回りました。
前年比6.5%は2022年11月以来の高水準です。
ただしコアPPIは0.4%と、予想の0.5%を下回りました。
上昇分の大半はエネルギーによるものです。
6月分は前月比マイナス0.3%と、予想の0.0%を下回りました。
2025年4月以来の大幅な低下です。
前年比5.5%も予想6.2%を大きく下回り、5カ月ぶりの鈍化となりました。
ガソリンが12%急落したことが主因です。
7月分は前年比4.7%と、予想の4.9%を下回りました。
コアPPIも前月比0.2%と予想0.3%を下振れています。
この3回で共通しているのは、振れ幅の大半をエネルギーが作っているという点です。
ヘッドラインの数字だけを見ると、判断を誤りやすくなります。
今回の予想
エコノミストは、8月分について総合とコアともに加速すると予想しています。
イランでの戦争と、それに伴うサプライチェーン混乱による価格への影響が、より明確に表れる見通しです。
結果ごとに考えられる値動き
予想を上回れば、インフレ圧力の強まりから米利上げ観測が高まり、ドル買いに傾きやすくなります。
予想を下回れば、利上げ観測が後退してドル売り。
円買いの流れと重なれば、152円台を試す展開もあり得ます。
ほぼ予想どおりなら、コアの数字とエネルギー項目の中身を確認しましょう。
総合が高くてもエネルギー主導であれば、基調のインフレは落ち着いていると判断できます。
今回のPPIで注意したいこと
今回に限っては、反応が限定的になる可能性があります。
翌11日に、8月のCPIが発表されるためです。
PPIは企業間で取引される「川上」の物価、CPIは消費者が支払う「川下」の物価です。
金融政策の判断で重視されるのはCPIのほうです。
しかも来週15日から16日にFOMCが開かれます。
ウォーシュ議長らは、CPIが利上げの是非を判断するうえで極めて重要になると示唆してきました。
CPIの予想は、総合が前月比0.4%上昇と加速する一方、コアは0.2%と緩やかな伸びにとどまる見通しです。
前年比では2.4%へ低下し、2021年以来の小幅な伸びになると見込まれています。
つまり、PPIで多少の上振れや下振れがあっても、市場はCPIを見るまで大きくポジションを傾けにくい状況です。
PPIの発表直後に大きく動いたとしても、その動きが続くとは限りません。
飛び乗るより、CPIを確認してから判断するほうが合理的な局面と言えます。
5. ベッセント長官の口先介入が抱えるリスク
前回お伝えしたベッセント長官の「胴元は私だ」発言について、警戒する見方も出ています。
期待が膨らみすぎている
元日銀調査統計局長でSOMPOインスティチュート・プラスの亀田制作氏は、ベッセント氏が市場の期待を過度に押し上げたと指摘します。
一部では0.5ポイントの利上げや、連続利上げを織り込む動きも出ているといいます。
亀田氏は、こうした利上げ観測は行き過ぎており、おそらく修正が必要になると分析。
日銀の対応が投資家の想定に届かなければ、その反動で円売りが再燃するリスクがあるとの見方を示しました。
日銀が置かれた立場
市場はすでに来週の会合で0.25ポイントの利上げが決まることを織り込み済みです。
そのため焦点はその後の追加利上げに移っており、植田総裁には、市場を失望させて最近の円高を逆戻りさせないよう、強いメッセージを打ち出すことが求められています。
日銀が来週利上げすれば、過去12カ月で3回目。
過去30年余りで最速のペースになります。
日銀当局者は半年に一度より速い利上げに前向きな姿勢を示す一方、政策の先行きについては柔軟性を保ちたい考えです。
この二つを両立させるのは簡単ではありません。
2024年の記憶
懸念されているのは、キャリートレードの一斉巻き戻しです。
2024年には、日銀が市場の想定以上に引き締めに前向きな姿勢を示し、投資家を動揺させました。
日経平均株価は1日で12.4%急落。
1987年のブラックマンデー以来の下げ幅を記録しています。
元日銀エコノミストでブルームバーグ・エコノミクスの木村太郎氏は、キャリートレードは円安局面では特にうまく機能するが、円高になると激しく逆回転し得ると指摘。
ベッセント氏は日銀の政策判断に口を挟むことで火遊びをしている、と述べました。
FXへの影響
整理すると、リスクは両方向にあります。
日銀が期待を下回れば、失望から円売りが再燃します。
期待が膨らんでいるぶん、反動も大きくなります。
逆に期待を上回れば、キャリートレードの巻き戻しが加速し、想定以上の円高が進む可能性があります。
2024年のように、株式市場を巻き込んだ混乱に発展する余地も残ります。
来週の会合まで、ポジションを傾けすぎない判断に合理性があります。
なお、ヘッジファンドはドル円が年末までに150円を割り込むと見込んでおり、一部の期間長めのオプション取引では140円までの円高を狙う動きも出ています。
6. 中東情勢と原油100ドル突破
中東の緊張が一段と高まっています。
米中央軍は8日、イランのタンカー5隻を攻撃し破壊したと発表しました。
イランは米国が使用するヨルダンの空軍基地に約20発のミサイルを発射し、米海軍の艦艇や商船も攻撃しています。
イラン政府高官によれば、同国は長期戦を続けるのに十分なミサイルを保有しており、報復を強める構えです。
北海ブレント原油は1バレル101ドルを上回り、7月以来の高値をつけました。
年初来の上昇率は約65%に達しています。
トランプ大統領と米政府高官の温度差
トランプ大統領は9日、「選挙が終われば、戦争はすぐに終わると思う」と述べ、数週間での終結を見込む姿勢を示しました。
一方、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、バンス副大統領やルビオ国務長官らが、トランプ氏の任期が終わる2029年1月まで紛争が続く可能性を見込んでいると報じています。
政権内部でも見方が割れているわけです。
FXへの影響
原油高は円安要因です。
日本の輸入コストが増えて貿易赤字が拡大し、実需の円売りが発生します。
同時に、米国ではインフレ懸念から金利上昇を招きます。
円高材料がそろうなかで、原油は数少ない逆方向の力です。
野村証券の伊藤高志氏は、足元のドル円の水準が企業の業績見通しを維持できるかの分岐点になっていると指摘。
「対ドルで150円を突破していくと株式市場としても目の色が変わり、業績懸念が高まるだろう」と述べています。
株安が進めばリスク回避の円買いが出やすくなる一方、日本企業の業績悪化は中長期的に円の重しにもなります。
150円という水準は、為替だけでなく株式市場にとっても節目になりそうです。
今日のまとめ
米金利が上昇してもドル円が動かない。
この状態が、円ショートの巻き戻しがまだ続いていることを示しています。
今夜のPPIは、明日のCPI待ちで反応が限定される可能性があります。
発表直後の動きに飛び乗らず、CPIを確認してから判断する余地があります。
日銀会合に向けては、期待が膨らみすぎている点に注意が必要です。
下回れば円売り再燃、上回れば巻き戻しの加速。どちらに転んでも値幅が出やすい局面です。
150円は株式市場も意識する節目です。
ここを突破するかどうかで、相場全体の空気が変わる可能性があります。
今回の新出用語
- 国債の買い戻し(バイバック):政府が市場に出回る自国の国債を買い取ること。需給を改善させ、金利を押し下げる効果があります。
- PPI(生産者物価指数):企業間で取引される「川上」の物価。CPIに先行して動く傾向があります。
- 円ショートの巻き戻し:積み上がっていた円売りポジションを解消する動き。買い戻しが発生するため、円高要因になります。
- ヘッドライン:指標の総合値のこと。エネルギーなど変動の大きい項目に左右されるため、基調はコアで判断します。
※「良い金利上昇と悪い金利上昇」「キャリートレード」など既出の用語は、用語集ページをご覧ください。
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