米雇用統計は予想を上回る、9月利上げ確率6割へ|ドル円156円付近、次の焦点は今週のCPIとPPI
このブログで用いている相場の見方と予想の仕方はこちら
【FXファンダメンタルズ分析法動画】
4日発表の米雇用統計は市場予想を上回り、9月の利上げ確率は6割前後まで上昇しました。
それでも円は156円付近で底堅く推移しています。
「なぜ強い雇用でも円安が進まない?」
「次に何を見ればいい?」
——この記事を読めば、その答えがすっきり整理できます。
むずかしい言葉は一つずつかみくだいていくので、どうぞ気楽に読み進めてくださいね。
まずは全体像から(先に結論をお伝えします)
- 米雇用統計は予想を上回り、9月の利上げ確率は5割前後から6割前後へ上昇
- それでも円は156円付近で底堅い。日銀の利上げ観測とGPIF観測が支えです
- 次の焦点は10日のPPIと11日のCPI。FOMCの判断を左右します
それでは、一つずつ見ていきましょう。
1. ドル円は156円付近で推移
まずは足元の相場から。
円は対ドルで156円ちょうど付近で推移しています。
先週2日間で4円超の急伸を見せた後、落ち着きどころを探る展開です。
株式は大きく上昇し、日経平均は上げ幅が一時1300円を超えました。
前週末の米国市場でエヌビディアなど半導体関連株が買われた流れを引き継いでいます。
債券も先物が上昇しました。
なお、7日は米国がレーバーデーの祝日で株式・債券市場が休場です。
野村証券の後藤祐二朗氏は、そのため「ドル円は156円前後で上値の重さが目立ちそうだ」としています。
ここで押さえておきたいのは、参加者が少ない日は値幅が出にくい一方、少額の売買で振れやすくもなるという点です。
連載でお伝えしてきたとおり、薄商いの日は油断せずに見ておきたいところです。
2. 金曜の米雇用統計 — 強い結果でも円安は限定的
結果は予想を上回る
4日に発表された8月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が市場予想を大幅に上回りました。
さらに、7月分も上方修正されています。
前回お伝えしたとおり、直近3回は下方修正が常態化し、7月分に至っては2万3000人の減少でした。
そこからの反転ですから、米労働市場の底堅さを印象づける内容だったと言えます。
相場の反応
この結果を受け、FF金利先物市場が織り込む9月FOMCでの0.25ポイント利上げ確率は、5割前後から6割前後へ上昇しました。全般にドル高が進んでいます。
債券市場では、短期金利が上昇する一方で長期債利回りは横ばいとなり、イールドカーブがフラット化しました。
つまり、利上げ観測は強まったものの、長期の見通しは大きく変わらなかったということです。
それでも円が底堅かった理由
ここが今回のポイントです。
全般にドル高が強まったなかでも、円は比較的底堅い動きを見せました。
理由は、円側に3つの支援材料があるためです。
ひとつめは、日銀の利上げ観測です。
市場では今月の利上げが確実視され、さらに今後ペースが速まるとの思惑も広がっています。
ふたつめは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が国内債券への資産配分を増やすとの観測です。
実現すれば海外への資金流出が減り、円買い要因になります。
みっつめは、高市政権の財政拡張スタンスが変わるとの期待です。
これは前週末に円と債券が上昇した一因とされています。
ただし、注意も必要です。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田啓介氏は、
これらについて「いずれも臆測で、相場の強さを信じ切れないところがある」と指摘しています。裏づけのある事実ではなく、期待が先行している面がある、ということですね。
市場参加者の見方
SBI FXトレードの上田真理人氏は、米雇用統計について「9月の利上げを決定づけるほど強くなかった」との見方を示しています。
そのうえで、「日銀が9月に利上げをした後もペース加速を示唆するメッセージを出せば、円は節目の155円を突破する可能性がある」と述べました。
ただし現時点では円を一段と買う材料に欠けるため、今週はもみ合いが続くと予想しています。
FXへの影響としては、こう整理できます。
米雇用が強くても、日銀の利上げという円側の材料があるため、以前のように一方的な円安にはなりにくい状況です。
連載で追ってきた「金利差が両側から縮む」構図が、実際に相場を支え始めています。
3. 介入の原資が判明 — 外貨準備が過去最大の減少
FXに直結する重要な統計が出ました。
財務省が7日発表した「外貨準備等の状況」です。
何が分かったのか
8月末の外貨準備高のうち、米国債を含む証券は前月末比878億ドル(約14兆円)減の8396億ドルとなりました。
預金も69億ドル減の1554億ドルです。
証券の減少額と減少率は、いずれも比較可能な2000年4月以降で最大。
外貨準備高全体でも796億ドル減の1兆2075億ドルと、減少額・減少率ともに過去最大でした。
前回お伝えしたとおり、政府・日銀は7月30日から8月26日までに15兆3993億円の為替介入を実施しています。
証券と預金の減少額を合わせると、この介入規模とほぼ一致します。
つまりどういうことか
伊藤忠証券の武田淳氏は、
「外貨証券や預金、特に米国債を売却した可能性が高い」との見方を示しています。
市場関係者は、外貨準備の約7割が米国債に投資されていると推定しています。
ここで重要なのが、米国の姿勢です。
武田氏は、ベッセント米財務長官が円安は行き過ぎだと繰り返し発言していることを踏まえ、「米国債を売って介入することを容認しているということだろう」とみています。
連載で追ってきたとおり、米国が協調介入に加わった動機のひとつは、日本が米国債を売ることで米金利が上昇するのを避けることでした。
それでも実際には売却が行われたとみられ、米国はそれを黙認した形です。
今後の介入余力への影響
日本総研の西村朱央氏は、興味深い指摘をしています。
「証券の残高自体はまだ介入をする余地はあると思うが、今後介入するにあたって米国債を売ると言うと、米国からの圧力で財務省や日銀は動きづらい」
FXへの影響としては、こう読めます。
資金そのものは残っていても、政治的に使いにくくなっている。
つまり、追加介入のハードルは以前より上がっている可能性があります。
だからこそ、日銀の利上げがいっそう重要になるわけですね。
介入に頼れないなら、金利で対応するしかないという構図です。
4. ゴールドマンが「円買い」を推奨
海外勢の見方にも変化が出ています。
ゴールドマン・サックスは、戦術的に円をロング(買い持ち)にする根拠が強まったと指摘しました。
同社のストラテジストは、「より長期的に見てリスクの非対称性が一段と明確に改善したことで、ドル円のショートは、リスク選好型ポートフォリオのヘッジとして、ここしばらくで最も魅力的になっている」と分析しています。
根拠として挙げられたのは3点です。
日銀の植田総裁が9月利上げに対する市場の予想を実質的に追認したこと。
GPIFの国内資産配分増加の観測。そして追加介入への警戒です。
とくに注目したいのが、次の指摘です。
世界的な環境はなお円にとって逆風だとしつつ、「これまで円の主な下押し要因だった国内政策が支援材料に転じることで、その影響はより大きくなるはずだ」というのです。
つまりどういうことでしょうか。
これまで円安の原因だった「日本の政策」が、利上げとGPIFという形で逆に円の支えに変わりつつある、という見立てです。
連載で長く追ってきた構図が、いよいよ転換点に差しかかっている可能性があります。
なお同社は、日本の当局には追加介入を実施する余力も十分に残っているとみています。
5. 今週の焦点 — PPIとCPI、そしてECB
10日のPPIと11日のCPI
今週最大の焦点は、米国の物価統計です。
9月15〜16日のFOMCで利上げするかどうかは、この結果次第と言われています。
10日発表の8月PPI(生産者物価指数)は、総合とコアともに加速する見通しです。
イランでの戦争とサプライチェーン混乱の影響が、より明確に表れると予想されています。
11日発表の8月CPI(消費者物価指数)は、前月比0.4%上昇と伸びが加速する見込みです。
ガソリン価格の上昇が一因とされます。
一方、コアCPIは前月比0.2%と緩やかで、前年同月比では2.4%へ低下し、2021年以来の小幅な伸びになる見通しです。
CIBCプライベート・ウェルスのティム・ミュジアル氏は、
雇用統計について「前菜に過ぎない。メインディッシュは11日発表のインフレデータだ」と表現しています。
FXへの影響としては、総合とコアで方向が分かれる可能性がある点に注意が必要です。
総合が加速してもコアが鈍化すれば、市場の解釈は割れます。
連載で繰り返しお伝えしているとおり、基調を示すコアで判断するのが基本です。
国債買い戻しの規模も焦点
もうひとつ、9日に米財務省が翌日実施する国債買い戻しの詳細を発表します。
従来の上限20億ドルを「少なくとも倍増」させる枠組みで、市場では3倍から5倍になる可能性も指摘されています。
買い戻し額が40億ドルを上回れば、国債相場の上昇(金利低下)を誘発する可能性があります。
金利低下はドルの上値を抑える要因ですから、為替にも間接的に影響します。
ECBは今年2回目の利上げへ
10日のECB政策委員会では、今年2回目の0.25ポイント利上げがほぼ確実視されています。
G7で最もタカ派的な中銀という位置づけが、改めて鮮明になります。
ユーロ圏の8月インフレ率は3.3%と約3年ぶりの高い伸びです。
焦点は年内3回目の利上げに当局者がどこまで前向きかで、投資家は12月の利上げをおおむね織り込んでいます。
JPモルガンなど複数のアナリストが、追加利上げを見込む方向に予想を変更しました。
FXへの影響としては、ECBの積極姿勢はユーロを支え、相対的にドルの上値を抑える要因になります。
日米欧がそろって引き締め方向に動く局面では、どこが最も積極的かで通貨の強弱が決まります。
6. その他の材料 — 中東と通商問題
週末の間に、米国がイランのタンカーを攻撃し、イランも報復攻撃を実施しました。
ホルムズ海峡の正常化が遠のくとの懸念から、原油価格は6月の暫定停戦合意以降の高値付近で推移しています。
原油高は連載で繰り返しお伝えしているとおり、日本の輸入コスト増と米インフレ懸念の両面から、円安・ドル高に働きます。
円高材料がそろってきたなかで、これは数少ない逆方向の力です。
また、8日にはカナダの対米報復関税が発効します。
最大の焦点は、トランプ大統領が追加措置で応じ、新たな報復の連鎖が始まるかどうかです。
交渉のテーブルに戻る兆しは見えていません。
なお、トランプ大統領はFRBへの利下げ圧力も強めており、FRBが行動しなければ対米黒字国・地域との貿易を打ち切ると警告する長文投稿を行いました。
FRBの独立性を巡る懸念は、中長期的なドルの重しになり得ます。
今日の要点整理
強い雇用統計でも円安が限定的だったことは、相場の質の変化を示しています。
日銀の利上げ観測、GPIF観測、財政スタンスへの期待という3つの支えが、円の下値を固めつつあります。
ただし鶴田氏が指摘するとおり、いずれもまだ臆測の段階です。
介入の原資は米国債の売却だった可能性が高いことが、外貨準備の統計で裏づけられました。
資金は残っていても米国への配慮から使いにくく、追加介入のハードルは上がっている可能性があります。
今週はPPIとCPIが最大の焦点です。
総合とコアで方向が分かれる可能性があり、基調を示すコアで判断するのが基本です。
FOMCの判断を左右する数字だけに、発表前後は慎重に構えたいところです。
155円という節目を突破できるかどうかは、日銀会合での「その後のペース」に関するメッセージ次第、というのが専門家の見方です。
ぜひ落ち着いて見守ってみてくださいね。
今回の新出用語
- 外貨準備:国が保有する外貨資産。円買い介入の原資になり、その増減から介入の実態を推測できます。
- ロング/ショート:買い持ちが「ロング」、売り持ちが「ショート」。ドル円のショートは円買い・ドル売りを意味します。
- イールドカーブのフラット化:短期金利が上がり長期金利が横ばいなどで、利回り曲線の傾きが緩やかになること。
- レーバーデー:米国の労働者の日。9月第1月曜日で、株式・債券市場が休場になります。
※「良い金利上昇と悪い金利上昇」「ビハインド・ザ・カーブ」など既出の用語は、用語集ページをご覧ください。
運営者情報
運営者:FX研究ブログ
管理者:ブタメン
略歴:管理人はファンダメンタルズ分析をメインとするトレーダー
ドル円をメインに分析解説を行っております。
2025年より当ブログを運営
X:ブタメンFX



